便利なデジタルデバイスが次々に開発され、スマートウォッチをはじめとするウェアラブルデバイスの利用が進んでいます。
スマートコンタクトレンズも、そのうちのひとつです。
しかし、
- スマートコンタクトレンズで何ができるか知りたい
- 実用化がどこまで進んでいるか知りたい
- 将来性や課題を知りたい
などの疑問をお持ちの方もいるでしょう。
結論から言うと、スマートコンタクトレンズは、レンズに超高精細なマイクロLEDディスプレイを搭載し、目の前に情報を表示できるデジタルデバイス。
日常生活や業務の効率化、健康管理のための医療用ツールとして開発されています。
本記事では、スマートコンタクトレンズの機能や開発について詳しく紹介。スマートコンタクトレンズの特徴や可能性について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
スマートコンタクトレンズの特徴5つ
スマートコンタクトレンズの特徴を次の5つにまとめました。
- 超高精細なマイクロLEDディスプレイ
- アイトラッキング技術による視線追跡が可能
- 医療用にも応用
- 高い操作性
- 健康状態をモニタリング
順に見ていきましょう。
1.超高精細なマイクロLEDディスプレイ
スマートコンタクトレンズは、超高精細なマイクロLEDディスプレイを搭載し、目の前に情報を表示することが可能です。例えば、地図・天気予報・スケジュール・メッセージなど。
Mojo Visionは、2022年3月に、スマートコンタクトレンズ「Mojo Lens」のプロトタイプを発表しました。
1インチあたり14,000ピクセルの解像度を持つマイクロLEDディスプレイを搭載し、かつ直径0.5mm未満で非常にコンパクトです。
電力として医療向けの超小型バッテリーを搭載しているとのこと。日本のコンタクトメーカー株式会社メニコンと共同開発契約を結びました。
しかし現在のところ、Mojo Visionはスマートコンタクトレンズの開発を一時停止しています。
2.アイトラッキング技術による視線追跡が可能
アイトラッキング技術とは、人の瞳孔の動きを検知して視線を追跡する技術です。
アイトラッキングの方法はさまざまありますが、スマートコンタクトレンズの場合は、眼球の周辺電極を測定することで眼球の向きを解析します。
また、5GHz帯の無線通信機能を備えており、視線追跡することで操作が可能となっています。
情報にアクセスする際に手を使う必要がなく、作業や会話をしながらでも操作が可能です。
ナビゲート機能が実装されれば歩きながら道順を確認できるため、スマホの画面を見る必要がなくなります。
3.医療用にも応用
従来のコンタクトレンズと同様、スマートコンタクトレンズには視力矯正機能による視力サポートが備わっています。
それに加えて、視覚障害者への支援的な役割も担います。
例えば、文字の拡大や物体の輪郭ハイライト、コントラスト調整など。さらにキャプション表示や翻訳機能も導入することで、視覚支援デバイスとして期待できそうです。
医療用のスマートコンタクトレンズとして、24時間常時眼圧をモニタリングし、緑内障の早期診断と治療を目的にしたものや、血糖値を持続的にモニタリングし、糖尿病の治療に役立てるものなどがあります。
参照:Jstage|AI/IoT と実装技術が拓く未来の健康・長寿社会~単独動作可能 持続血糖モニタリングコンタクトレンズの研究開発~
4.高い操作性
スマートコンタクトレンズは、ジェスチャーや音声で操作が可能で、スマートフォンなどのデバイスを操作する必要がないものを開発しています。
視線を動かすだけで操作できるものもあり、サムスン社はモーションセンサー付きレンズを設計する特許をアメリカで取得。
同社は、レンズが直接ユーザーの目に画像や動画を映し出す技術も開発中です。
眼に画像や動画を直接映し出す技術も開発中ですが、市場参入は数年先といわれています
エンターテイメントにも活用
スマートコンタクトレンズを通して動画を見たり、音楽を聴いたり、ゲームを楽しんだりできます。
例えばイベント中、自分の目で見る情報だけでなく、別角度から撮影した映像や配信された情報をレンズを通して確認できると満足度が高そうです。
実用化されれば、サッカーの試合中に試合や選手に関するデータを確かめたり、コンサート会場で最前列からの視界に切り替えたりするなど、より没入感のあるエンターテイメント体験が楽しめるでしょう。
5.健康状態をモニタリング
スマートコンタクトレンズにはセンサーが組み込まれており、血糖値、心拍数、血圧などの健康状態をモニタリングできます。この機能のおかげで、体の不調をいち早くキャッチできるでしょう。
スタンフォード大学と浦項工科大学は共同で、グルコースの量を連続測定できるスマート・コンタクトレンズを開発中です。
糖度計のような医療機器がなくても、さらにいちいち計測せずとも、継続して健康状態をモニタリングできます。
今後、スマートコンタクトレンズは病気の早期発見・早期治療に役立つでしょう。
スマートコンタクトレンズを開発中の企業3選
スマートコンタクトレンズを開発中の企業を3社紹介します。
- Mojo Vision|マイクロLEDディスプレイ技術に注力
- Alcon|医療用スマートコンタクトレンズの開発
- Xpanceo|次世代型スマートコンタクトレンズ
それぞれ見ていきましょう。
1.Mojo Vision|マイクロLEDディスプレイ技術に注力
米国のスタートアップMojo Visionは「目に見えないコンピューティング」を掲げ、スマートコンタクトレンズの開発に取り組んできました。
2015年の創業以来「Mojo Lens」の開発に取り組み、2022年3月にマイクロLEDディスプレイを搭載したものをプロトタイプとして発表しました。ほかにも次のような機能や特徴があります。
- 5GHz帯の無線通信機能
- 加速度センサー
- ジャイロスコープ
- 地磁気センサーなどを使用してアイトラッキング(視線追跡)
- サイズ直径0.5mm未満
しかし資金難が原因で、2023年1月にスマートコンタクトレンズ「Mojo Lens」の開発を一時中断しており、従業員の75%をレイオフすると発表。
現在は、マイクロLEDディスプレイ技術に注力しています。
一時中断しているだけで、開発再開が期待されています。現在は、マイクロLEDディスプレイの開発に力を入れているようです。
株式会社メニコンと共同開発契約を締結
2020年9月、Mojo Visionとメニコンは、スマートコンタクトレンズの共同開発契約を締結しました。
メニコンは、レンズ素材、レンズケア、フィッティングに関する専門知識を提供することで合意。
Mojo Vision側は、マイクロエレクトロニクス、システム統合、消費者向け製品のイノベーションに関する専門知識を提供するとしています。
このプロジェクトにはKDDIも出資しています。
2.Alcon|医療用スマートコンタクトレンズの開発
もともとGoogleが開発していた医療用スマートコンタクトレンズですが、その技術ライセンスを医薬品事業大手ノバルティス傘下Alconが取得しました。
糖尿病患者の涙液から血糖値を測定できるといったものです。
2023年10月には、AlconがMojo Visionと提携して開発がスタートしています。実用化すると、患者の体の負担を最小限に押さえつつ、血糖値を常時測定できるようになるでしょう。
糖尿病は血糖値の管理が大変なので、実用化すると画期的ですね!
3.Xpanceo|次世代型スマートコンタクトレンズ
Xpanceoは、ドバイを拠点とするスタートアップ企業で、次世代スマートコンタクトレンズの開発に注力しています。
2023年10月には、4000万ドル(約60億円)の資金調達を発表し、2025年または2026年までに一般向けの商品としての発売を目指しています。
現在開発中の技術は、暗視機能、3D視覚、AR体験、生体認証、健康状態モニタリングなど。
ソフトコンタクトレンズと同等の素材を使用し、長時間装着しても負担が少ない製品の実現化が期待されています。
未来の生活が目の前に迫っているかもしれません。
スマートコンタクトレンズ実用化に向けた課題
スマートコンタクトレンズは、残念ながらまだ実用化していません。実用化に向けた課題について次の5つにまとめました。
- 従来の電池では動作時間が短い
- 装着時の違和感がある
- 開発・製造コストが高い
- 法整備が追いついていない
- 長期的な使用による健康への懸念がある
順に見ていきましょう。
従来の電池では動作時間が短い
スマートコンタクトレンズは超小型かつ軽量であるため、十分な電源を確保するのが難しいという問題があります。
現時点で利用可能な電池では動作時間が短く、長時間使用に耐えられません。眼球運動を利用した発電など、新たな電力供給方法の開発が必要です。
ほかにも涙に含まれるナトリウムイオンとカリウムイオンで充電するといった案もあるようです。
装着時の違和感がある
Mojo Visionが開発したスマートコンタクトレンズの場合、レンズ中央の六角形部分にディスプレイが配置されています。
また、イメージセンサー・モーションセンサー・バッテリーも内蔵されているため、どうしても分厚くなってしまうといった問題も。
さらに、頻繁な瞬きに耐えつつ長時間装着する必要があるため、現在のコンタクトレンズのように薄く快適な装着感を実現させなければいけません。
そのため、レンズ素材や形状の改良、異物感の軽減が必須といえます。
開発・製造コストが高い
Mojo Visionの累計資金調達額は1億5900万ドル(約240億円)以上となっていますが、未だ製品化に至っていません。
スマートコンタクトレンズの開発にかかるコストが非常に高く、開発を断念する企業も少なくないようです。
基礎的な研究開発費用に加え、センサー技術やディスプレイ技術、小型で高性能なバッテリーなど、技術的な課題も多いのが現状です。
さらに高い品質を満たす製造工場と品質管理など、製品になるまでにかかるまでに莫大なコストがかかります。
法整備が追いついていない
スマートコンタクトレンズは医療機器と情報通信機器の両方の性質を持つため、多くの法規制をクリアする必要があります。
新しい技術であるために、整備すべき対象の法律がわからないといった問題もあるようです。
例えば、次のような法律が関係してくると想定されます。
医療機器法 | 医療機器として安全性と有効性を確保 |
個人情報保護法 | 個人情報の取り扱い |
電波法 | 電波の利用 |
各国・地域で、適用される法律や規制が異なることも対応を難しくしている一因です。
長期的な使用による健康への懸念がある
コンタクトレンズは眼球に直接触れ、長時間使用するデバイスです。網膜や眼球への影響だけでなく、電波が体に及ぼす影響など、安全性に関する課題をクリアしなければいけません。
最終的には、人間が装着して試す必要があり、長期的な使用による健康への影響も検証する必要があるでしょう。
スマートコンタクトレンズに関するよくある質問
スマートコンタクトレンズに関する、よくある質問について集めました。
- スマートコンタクトレンズとスマートグラスの違いは?
- スマートコンタクトレンズの問題点は?
- ARコンタクトレンズとは?
- 実用化はいつ?
それぞれ詳しく見ていきましょう。
- スマートコンタクトレンズとスマートグラスの違いは?
-
スマートコンタクトレンズは、眼球に直接装着するコンタクトレンズ型のデジタルデバイスです。
それに対してスマートグラスは、眼鏡型のデジタルデバイス。
開発中のスマートコンタクトレンズに対し、スマートグラスは商品化されており、スマートウォッチに続くウェアラブルデバイスとして期待されています。
レンズを通してデジタル情報を表示させる点は共通しており、どちらもハンズフリーで楽しめます。スマートグラスにあり、スマートコンタクトレンズにない機能としては、音声再生や通話機能です。
- スマートコンタクトレンズの問題点は?
-
スマートコンタクトレンズが商品化されるまでに、クリアすべき多くの問題があります。例えば次のような問題点が一例です。
- 快適性と安全性
- 耐久性
- バッテリーの寿命
- 製造コスト
- 法規制
細かい点でいえば、眼球への酸素供給の確保や電波による健康への影響、清潔に保つために薬剤で洗浄しても製品に問題がないかなど。克服すべき課題や問題点は少なくありません。
また、開発費が莫大にかかり、資金力が必要な点も大きな問題です。製品化したところで、販売価格が高すぎると一般化しにくいといった問題もあります。
- ARコンタクトレンズとは?
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現在主に視力矯正のために使われているコンタクトレンズに、ディスプレイや通信、モーションセンサーなどの機能を搭載したもので、スマートコンタクトレンズの一種といえます。
眼球に装着することで、リアルタイムの情報を表示可能です。
Mojo Visionが開発するMojo Lensが世界初のARコンタクトレンズだといわれています。
- 実用化はいつ?
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ドバイを拠点とするXPANCEOはホームページにて「2025年か2026年までに実用化を目指している」と宣言しています。
同社は、50人以上の科学者とエンジニアでチームを組み、スマートコンタクトレンズの実用化に向けて取り組んでいます。
現在のところ、プロトタイプとして以下の3種のスマートコンタクトレンズを発表しました。それが以下です。
- ナイトビジョンと3D
- 臨床用視力測定
- AR用のホログラフィック
それぞれの機能を統合したスマートコンタクトレンズが完成するとよいですね!
まとめ
この記事では、スマートコンタクトレンズについてまとめました。
最後に重要な点をおさらいしておきましょう。
- 眼球に直接装着するウェアラブルデバイス
- ハンズフリーで直接視界にデータを表示できる
- 日本のコンタクトメーカー・メニコンも開発に関わっていた
- 現在開発中の企業はXpanceoで2025年に実用化を目指している
- 実用化には技術的な問題と法規制の問題がある
現時点では課題があり、実用化までに超えるべきステップがいくつもありそうです。しかし、商品化されると、未来だと思って描いていた現実が私たちの生活の一部になりそうですね。
今後もスマートコンタクトレンズの開発状況を興味深く見守っていきたいものです。本記事を参考に、未来型デバイスの開発を応援していきましょう。