2023年1月に米ラスベガスで世界最大級のテクノロジー展示会「CES 2023」が開催され、パナソニックの100%子会社Shiftall開発のVRグラスが話題になりました。
パナソニックがメタバース事業に本格的に参入したと聞いて以下の疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
- パナソニックはなぜメタバース事業に参入したの?
- 話題のパナソニックのVR製品ってどのようなもの?
- パナソニックはメタバース事業をどう展開する予定?
本記事では、パナソニックがメタバース事業に参入した理由や事業事例、将来性について解説します。
それぞれわかりやすく解説していますので、興味のある方は最後までご覧ください。
メタバースとは、オンライン上でアバターを使ってコミュニケーションをとれる仮想空間のことです。
ゲームだけでなくビジネス、教育、建築など、さまざまな分野で活用されています。
メタバース内ではアバターやアイテムがNFT化され、仮想通貨を使って取引されるケースも。
Meta(旧Facebook)や、マイクロソフトなどの大手企業がメタバース事業に参入しており、世界的に注目を集めています。
メタバースについて詳しく解説している記事があるので、参考にしてください。
パナソニックがメタバースに参入した3つの理由
家電メーカーとして安定した基盤を持つパナソニックは、なぜメタバース市場に参入したのでしょうか?
考えられる主な理由は以下の3つです。
- VR ・メタバース市場の活性化
- 5Gの普及による可能性
- テレビメーカーとしての技術
それぞれの理由についてわかりやすく解説します。
1.AR / VR・メタバース市場の活発化
AR / VR・メタバース市場の活性化は、パナソニックがメタバースに参入した理由のひとつです。
総務省でとりまとめている「情報通信白書」によると、AR / VR市場規模は着実に拡大中。
個人向けにはゲームや観光地の擬似体験、企業向けでは不動産会社のモデルルームや設備点検の作業手順などに活用されています。
メタバースの世界市場も、2021年に4兆2,640億円だったものが2030年には78兆8,705億円まで拡大すると見込まれています。
AR / VRとメタバース市場の規模拡大を見込み、Shiftallではすでに開発リソースの7割をメタバース関連製品に投入しています。今後、割合はさらに上がる予定です。
パナソニックはVRコンテンツに関連するメタバース事業の拡大を計画し、新たなビジネスチャンスの獲得を目指しています。
2.5Gの普及による可能性
5Gサービスの普及により、VRコンテンツの制作・配信・販売などの市場が拡大していく可能性が高いことも、パナソニックがメタバースに参入した理由のひとつです。
5Gは「超高速」だけでなく「超低遅延」「多数同時接続」といった新しい特長を持つ第5世代移動通信システムです。
たとえば、長編映画をダウンロードする場合でも4Gでは8分のところ、5Gではわずか5秒しかかかりません。
日本の5G普及は着実に進んでおり、2023年の終わりには5Gの基盤展開率は98%以上に達する予定です。(参照:GO!5G 世界最高水準の5Gの実現へ)
基盤の整備が整えば、新たな5Gサービスが続々とリリースされるでしょう。
パナソニックは5Gの普及とメタバース市場の成長を踏まえて早期参入し、大きなシェアの獲得を目指しています。
3.テレビメーカーとしての技術
パナソニックは、長年にわたりテレビ製造の分野で高い技術力を蓄積してきました。
その映像・音響技術はメタバースにおいても、他の追随を許さない大きな強みとなります。
パナソニックは、2007年に国際出願件数が世界一となり、現在でも10万件以上の知財を保有しています。日本・外国特許保有件数ランキングでも常にトップクラスです。
これらの技術は、パナソニックがメタバース分野で競争力を持つための重要な要素となっており、同社のメタバースへの参入を促進しています。
パナソニックのメタバース向けVR製品4選
パナソニックは、新たなデジタルのフロンティア、メタバースに向けたVR製品群を展開中。
仮想現実と現実世界をシームレスにつなぐことで、より高い没入感を楽しめます。
ここではパナソニックが提供するメタバース向けVR製品の中から、2022月1月に発表された4つの製品を紹介します。
- MeganeX(メガーヌエックス)|VRヘッドセット
- mutalk(ミュートーク)|防音Bluetoothマイク
- Pebble Feel(ぺブル フィール)|ウェアラブル冷温デバイス
- HaritoraX・HaritoraX 1.1・HaritoraX ワイヤレス
その特性とともに詳しく見ていきましょう。
1.MeganeX(メガーヌエックス)|VRヘッドセット
「MeganeX」は、「CES 2020」でパナソニックが参考出展していた5VRグラスを、子会社のShiftallが引き継ぎ製品化したVRヘッドセット。
有機ELパネルによる高解像度の映像と、バッテリーを搭載しないことで実現した超軽量設計が特徴的なVR製品です。
約250g(本体のみ)とVRヘッドセットとしては非常に軽く、ユーザーは疲れることなく長時間使用可能。
現実世界での動きを連動できる6DoF(Degrees of Freedom)対応で、ユーザーがメタバース内で自由に行動できます。
レンズ下のレバーで度数調整できるため、近視の方でも快適に使用できることも魅力のひとつです。
2023年3〜4月頃に発売予定でしたが、製造工程見直しのため7月発売に変更。発売に先駆けて店頭での展示も予定されているため、購入を検討している方は誰でも実際に試せます。
2.mutalk(ミュートーク)|防音Bluetoothマイク
「mutalk」は自身の声が周りにもれにくく、同時に周囲への騒音を気にせず楽しめる防音Bluetoothマイクです。
付属の専用バンドで顔に固定しハンズフリーで会話できるため、コントローラーの使用、PCでのタイピング、メモなどが可能です。
話したいときだけ口に当てて会話し、ミュートしたいときは「mutalk」の口元を上に向けるだけで自動的にマイクオフするといった使い方もできます。
この場合、持ち上げるとすぐにミュート解除できるため、アプリ上での面倒な操作が必要ありません。
情報漏洩の心配があるオンライン会議や深夜のオンラインゲームなどのシーンで安心して利用できます。
3.Pebble Feel(ぺブル フィール)|ウェアラブル冷温デバイス
「Pebble Feel」はパナソニックが開発した高効率のペルチェ素子を搭載したパーソナルエアコン。
温度情報伝達アプリ「SteamVR」を利用し、パソコンからBluetooth経由で温度情報が伝達されます。
温度タグが実装されたVRChatのワールド内で、温泉では汗をかくくらいの暖かさ、川では水の冷たさなどの温度感覚を味わえます。
メタバース空間だけでなくスマホアプリでウェラブル冷温デバイスとしても利用可能。血管が集中している首筋に装着すると、全身を暖めたり冷やしたりしてくれます。
Shiftallとワークマンとのコラボが実現し、Pebble Feelの技術を応用して共同開発した「冷暖房服」も販売されています。
4.HaritoraX・HaritoraX 1.1・HaritoraX ワイヤレス
HaritoraXは、腰や足など5点の動きをトラッキングするVR製品です。
VRヘッドセット(頭部)、コントローラー(右手・左手)を同時に利用すれば、8点のトラッキングが実現。
肘や腰の拡張セットを利用すると最大11点のトラッキングが可能です。
たとえば、ダンスなどでも細かい動作を拾ってくれるため、臨場感あふれる動きがメタバース上で再現されます。
「HaritoraX 1.1」は、2021年に発売された「HaritoraX」のマイナーチェンジモデルです。
HaritoraXの電子部品の構成を見直し、従来の性能のまま、より多くの人の手に渡るよう改善しました。
「HaritoraX ワイヤレス」は、小型で長時間使用できる完全ワイヤレスのモーション・トラッキング装置です。
足首部に距離センサーを内蔵していることが特徴で、足の甲にセンサーを取り付けることなく動きをアバターに反映できます。
センサー間が有線接続されていないため、ダンスなど激しい動きで利用したい人におすすめです。
HaritoraX、HaritoraX 1.1は、23年3月の時点で1万台超が出荷されています。
パナソニックのメタバース事業事例と将来性
パナソニックは2022年1月にメタバース事業への参入を発表しました。
また、2022年3月に発足した国内のメタバースに関する業界団体「一般社団法人メタバースジャパン」設立にも携わっています。
同理事としてパナソニック株式会社コネクティッドソリューションズ社常務の山口有希子氏が加入。
急成長・急拡大が期待されるメタバース市場の波に乗るべく、パナソニックはメタバース関連サービスを続々と開発しています。
主なメタバース関連サービスは以下の3つです。
- 環境計画支援VR
- Project PLATEAU(プラトー)
- アメリカザリガニ平井のメタバース劇場
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.環境計画支援VR | 事業計画の空間をメタバースで立体化
「環境計画支援VR」は2000年から1,500件以上のプロジェクトで活用されている、3次元デジタル空間を自由に歩き回れるVR技術です。
関係者のイメージを共有するコミュニケーションツールとして、次のような幅広い分野で活用されています。
- 建築計画や都市計画
- まちづくり
- 観光
- 教育
- シティプロモーション
たとえば、良好な夜間景観づくりやイベント時の照明演出の検討、スタジアム等のスポーツ施設でプレイしやすい照明環境の構築などです。
VR技術を用いて、用途、時間帯での運用アイデアを見える化し、魅力的な施設づくり計画をサポートしています。
2.Project PLATEAU(プラトー) | VR技術でまちづくり支援
パナソニック株式会社は、国土交通省が推進する「Project PLATEAU(プラトー)」で、一部の品質管理や技術実装業務に参画しました。
「Project PLATEAU(プラトー)」は、日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト。2020年12月に始動し、2030年までに全国100都市の3D都市モデルを整備する予定となっています。
3D都市モデルとは、建物や道路、河川などの地形や構造物、植生などの自然環境、さらには人口や交通などの社会環境を3次元データで表現したものです。
このデータを活用することで、次のような分野で効果的な活用が期待されています。
- 都市の計画や設計
- 災害時の被害想定
- 観光振興
パナソニックはProject PLATEAU(プラトー)」への参画により、国土交通省が推進する「まちづくりのDX」の取り組みを支援しています。
3.アメリカザリガニ平井のメタバース劇場 | 新感覚のエンターテインメント
アメリカザリガニ平井のメタバース劇場は、2022年9月27日に大阪の松竹芸能 DAIHATSU 心斎橋角座で開催されたイベントです。
パナソニックは、このイベントに「Projector&メッシュスクリーン」と「3D Dress-up システム」を提供しました。
「Projector&メッシュスクリーン」は、高性能プロジェクターとメッシュスクリーンを組み合わせたシステムです。
高解像度で鮮明な映像を360度全方向に投影できるため、観客はまるで劇場のなかにいるかのような臨場感でイベントを楽しめます。
「3D Dress-up システム」は、3Dの衣装をバーチャル試着できるシステムで、観客は自身の好きな衣装を着用できます。
アメリカザリガニ平井のメタバース劇場は、パナソニックの技術によって新しいエンターテインメントの形を実現しました。(参考:https://connect.panasonic.com/jp-ja/case-studies/shochikugeino)
このイベントはメタバースの可能性を示し、今後の展開が期待されています。
今後のメタバース事業
パナソニックの今後のメタバース事業には、以下のものがあります。
- VRコントローラー「FlipVR」を2023年内に発売予定
- 人工嗅覚システムの実用化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
VRコントローラー「FlipVR」を2023年内に発売予定
パナソニックはVRコントローラー「FlipVR」を2023年内に発売する予定です。
FlipVRは通常時は手のひら側にある操作ボタンを手の甲に跳ね上げられる、新しいスタイルのVRコントローラー。
コントローラーを持つ手が解放されるので、現実世界で飲み物をつかんだり、キーボードやマウスを操作したり、楽器を演奏したりできます。
操作パネルの位置と角度を調整できるので、さまざまな手の大きさや指の長さでも快適に操作可能です。
パナソニックは、FlipVRに以下の技術を採用しています。
- 手の位置を正確にトラッキングする技術
- 操作パネルの位置と角度を調整できる構造
- 長時間快適に操作できるデザイン
メタバース内のライブイベントで利用すれば、楽器の演奏中にスピーディーなアバター操作が可能です。
パフォーマンスの自由度が増し、新たな表現方法が生まれるかもしれません。
2023年6月時点で価格は未定です。
人工嗅覚システムの実用化
パナソニックはメタバース空間では視覚や聴覚だけでなく、嗅覚も重要な要素になると考えており、人工嗅覚システムの実用化を目指しています。
これまで嗅覚のデジタル化は極めて困難だとされていました。主な理由は以下のとおり。
- 40万種類に及ぶにおい成分の膨大さ
- におい物質の濃度の低さ
しかし、パナソニックの人工嗅覚センサは、ひとつのデバイスで多様なニオイを判別することに成功。
パナソニックは今後この人工嗅覚システムをメタバース空間に導入することで、ユーザーによりリアルな体験を提供したいと考えています。
たとえば、メタバース内のコーヒーショップではコーヒーの香りを、花畑では花の香りを嗅げるようになるかもしれません。
この技術は、メタバース空間の新たな可能性を広げてくれることでしょう。
パナソニックのメタバースに関するQ&A
パナソニックのメタバース事業に関するよくある質問についてまとめました。
- Shiftallとはどのような会社?
- MeganeXの発売日はいつ?
- MeganeXは予約できる?
気になる項目をチェックしてみましょう。
- Shiftallとはどのような会社?
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Shiftallとは、パナソニックを経て独立し株式会社Cerevoを起業した岩佐琢磨氏が、2018年4月に新たに設立したパナソニックのグループ会社です。
独自ブランドによるIoT製品や家電、ガジェット類の企画・開発・販売・サポートをおこなっています。
くらしの統合プラットフォーム「HomeX」、集中力を高めるウェアラブル端末「WEAR SPACE」などでパナソニックの新規事業に協力しています。
- 「MeganeX」の発売日はいつ?
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「MeganeX」と「MeganeX Business Edition」は、ともに2023年7月に販売が開始され、Shiftall Webにて購入できます。
「MeganeX」は当初2023年3〜4月頃の発売予定でしたが、基幹部品の製造工程見直しのため、7月に発売が延期されました。
価格は以下のとおり。
商品名 希望小売価格 「MeganeX」 249,900円(税込) 「MeganeX Business Edition」 検討中(2023年6月現在) - 「MeganeX」は予約できる?
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2023年6月現在、事前予約についての情報はありません。
Shiftall公式Twitterなどをフォローして、最新情報をチェックしておきましょう。
まとめ
この記事では、パナソニックのメタバース事業への参入理由やVR製品の事例、そして将来性についてまとめました。
最後に重要な点をおさらいしましょう。
- 急成長・急拡大が期待されるメタバース市場
- パナソニックの高い技術力がメタバース事業での強み
- パナソニックはメタバース関連サービスを続々と開発
- 今後は人工嗅覚システムでメタバース空間に新たな可能性
メタバース市場は今後ゲームやエンターテインメント、教育、ビジネスなどさまざまな分野で急速に拡大していくでしょう。
パナソニックが長年積み重ねた高度な技術を活かせば、まったく新しいメタバースが誕生するかもしれません。パナソニックの今後の取り組みに期待が高まります。