近年はWeb2.0から3.0に移行する時期に入り、同時にメタバースやAIが台頭し始めました。すでに何らかのメタバースや、ChatGPTに類するAIツールを使ったことがある人もいるのではないでしょうか?
しかし、
- AIとメタバースはどう関係しているか
- 併用した場合の事例はあるか
- 今後メタバースとAIが発展していくにあたりどのような課題があるか
このような疑問を持っている人は多いのではないでしょうか?
結論から言うと、メタバースとAIは深く関係しています。
具体的にはAIが、メタバースの開発や発展に関して大きく寄与している状態です。
本記事では両者の関係性などに関して解説しているので、ぜひ参考にしてください。
メタバースとは、オンライン上でアバターを使ってコミュニケーションをとれる仮想空間のことです。
ゲームだけでなくビジネス、教育、建築など、さまざまな分野で活用されています。
メタバース内ではアバターやアイテムがNFT化され、仮想通貨を使って取引されるケースも。
Meta(旧Facebook)や、マイクロソフトなどの大手企業がメタバース事業に参入しており、世界的に注目を集めています。
メタバースについて詳しく解説している記事があるので、参考にしてください。
AIがメタバースに対してできること
冒頭のとおりAIはメタバースの維持や発展に対して深く関連しています。主に以下のようなシーンでAIが活用されています。
- メタバース内部のデザイン・構築のサポート
- Web3.0的なシステムの構築
- NPCのクオリティ向上
- 翻訳によるコミュニケーションの向上
順番に解説します。
メタバース内部のデザイン・構築のサポート
AIは、メタバースのデザインや構築を支える役割を果たしています。
現在ではAIを使ってイラストや風景、あるいは3D空間をデザインさせることが可能です。
たとえばBlockeLabsというツールでは、簡単な操作で3D空間を構築できます。
個人レベルでこれだけのことができるので、エンジニアや企業向け開発ソフトを集結させれば、より高い次元でメタバースをデザインすることが可能でしょう。
また、メタバースを運営するには相当な開発基盤が必要ですが、その一部もAIによってまかなえます。
具体的にはAIを利用して人的リソースをカットする、バグなどを自動検出してその場で修復してしまうといったことができるようになるのです。
AIがさらに進歩すれば、より美しいグラフィックや世界観、あるいは安定した運営のもと、高品質な仮想空間体験が得られるでしょう。
五感が再現できるかもしれない
2024年現在、現実世界にいながらメタバース上で生じた事象に対する五感を再現できるAI技術が開発されています。
英IT企業Scentientが、特定の匂いを再現できるデバイスEscentsを開発しています(参考::idemitsu)。
現在は焼けた匂いなどを発生させ、消防士の消火活動訓練に活用。ある程度匂いのバリエーションを再現できるので、今後一般的な使用にも期待が持たれています。
視覚や聴覚などはともかく、嗅覚や感覚を再現するのはきわめて困難だとされています。AIは関係しないかもしれませんが、いずれにせよ今後も進化が期待されます。
Web3.0的なシステムの構築
本格的なメタバースにはほぼ必須となるWeb3.0的なシステムを作るうえでも、AIは活用されます。その一例として、スマートコントラクトが挙げられます。
あらかじめ入力された条件や契約に基づき、ユーザー間の取引が実施されること。つまりフェアなトレードが実施されるように見守る第三者的な役割を担う。主に仮想通貨、NFTの取引で用いられる。
メタバースの多くは仮想通貨やNFTの取引文化とつながっており、安全に取引するには、スマートコントラクトが必要不可欠。そしてより適切に判断するうえでAIが重用されています。
たとえばIBMも、AIを活用することで、スマートコントラクトは高度化するという趣旨を発表しています。
NFTと仮想通貨とメタバース、Web3.0的な現状は、AIの支えがなければ成り立たなかったでしょう。
NPCのクオリティ向上
AIは、メタバース上に存在するNPCのクオリティ向上に貢献しています。
Non Player Characterの略称。プレイヤーが操作しないキャラクターのことを指す。
現在、多くのメタバースはゲームの体裁を取っており、その完成度はNPCの完成度に依存します。
従来のゲームでは、NPCは、あらかじめプログラミングされた言動や行動しかできませんでした。
しかし、AIを導入することでユーザーと自然に会話したり、より高い次元でNPCとしての役割を果たしたりできるようになります。
たとえば敵役のキャラクターが、よりユーザーの戦闘意欲を高めるように振る舞う、柔軟な判断から高度な戦術を実行するなどが挙げられるでしょう。
このようにNPCのクオリティを高めることで、より現実に近い体験を得られます。
翻訳によるコミュニケーションの向上
AIに翻訳を担当させ、ユーザー間のコミュニケーションを円滑化する動きもあります。
メタバースでは、使用言語が異なるユーザー同士が出会うことが多々あります。この場合、英語を使ったり、一方が翻訳ツールを使ったりして、意思疎通を図れるでしょう。
しかし現在は、AIによるリアルタイム音声通訳が普及しはじめています。
Meta社は、メタバースでの使用を前提としたユニバーサル翻訳システムUniversal Speech Translatorの開発を進めています。
このシステムにより、たとえ話者が少ない言語を使うユーザーでも、問題なくコミュニケーションに参加することが可能です。
このようなリアルタイム音声翻訳により、メタバースのコミュニケーションは支えられているのです。
AIとメタバースの併用の先進的な活用事例
AIとメタバースは、登場時から深く結びついており、すでにいくつもの活用事例があります。本記事でも以下3例を紹介するので参考にしてください。
- Builder Bot|音声入力でメタバースをデザイン・構築
- Cluster|AIエージェントによるメタバース体験のサポート
- NTTドコモ|メタバース上でNPCを自動生成
Builder Bot|音声入力でメタバースをデザイン・構築
Meta社がリリースしたBuilder Bot(ビルダーボット)は音声入力をAIが認識し、認識した内容に基づき3Dデザインを実施するツールです。
Builder Botによりただ話すだけで、3D空間を制作できるようになりました。
以下の動画では、発言に応じてオブジェクトが配置されています。
同ツールは、2024年5月時点でまだ本格的に運用されていません。しかしBuilder Botのようなツールが発展すれば、今後はより簡単にメタバースをデザイン、構築できるようになるでしょう。
今後は個人でも簡単にメタバースを作れるようになるかもしれません。
Cluster|AIエージェントによるメタバース体験のサポート
主要なメタバースプラットフォームのひとつであるCluster(クラスター)では、ユーザーをサポートするためのエージェントが存在します。
法人イベント開催者向けに、AIエージェントを導入しています。プレスリリースによると、AI制御下にあるNPCアバターに、質問応対、接客、商品案内などを担当させられるとのこと。
また、AIが顧客との会話を経て学習し、常によりよいコミュニケーションが実現できるように成長します。
この機能は2024年3月にリリースされる予定でしたが、2024年5月現在、続報はありません。
しかしAIで制御されたNPCアバターは、個人法人問わず多くのユーザーから求められており、導入されれば重用されるものと見込まれます。
Cluster公式サイトを見る限りでは、メタバースにおけるAIによる顧客案内は重要視されているようです。今後はメタバース上でのイベントや発表会などが、主要戦略のひとつになるかもしれません。
NTTドコモ|メタバース上でNPCを自動生成
NTTドコモは、メタバースにおけるNPCを自動で作る生成AIを開発しました。
要約すると、ビヘイビアツリーというNPCの行動規範からグラフィックを生成し、NPCとして活動させる技術です。
生成AIの開発により、メタバース空間におけるNPCの生成や配置が簡略化され、よりスムーズに開発、アップデートなどを実施できるようになりました。
今後はビヘイビアツリーの強化などによって、生成されるNPCの品質向上、生成自体のスピードアップなどが期待されます。
AIの活用事例について解説している記事があるので、参考にしてください。
AIによるメタバース発展における今後の課題
メタバースはAIによって発展してきました。しかしさらなる進化を遂げるには、以下のような課題があります。
- 関連する法律の整備が追いついていない
- セキュリティの脆弱性が解消されていない
- メタバース依存のリスクを否定できない
関連する法律の整備が追いついていない
メタバースに関連する法律の整備が、まったく追いついていない点も問題です。
インターネット創世記には、当然ながらそれを統治する法律はありませんでした。その後普及するにつれ後追いで法整備され、現在の形があります。
メタバースに関しては、2023年4月に総務省が発表した「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理(案)」についてにおいて、課題点が整理されました。
しかし、2024年5月現在、まだ具体的な法案が施行されているわけではありません。
そのため、たとえばメタバース上で仮想通貨の盗難に遭っても、起訴できず、補償も受けられない可能性があります。
将来的に法整備が整えば、メタバースが発展すると考えられるでしょう。
セキュリティの脆弱性が解消されていない
セキュリティの脆弱性が解消されていないのは、重大な問題です。総務省によれば、メタバースには以下のようなセキュリティリスクがあるとのことです。
- なりすまし/他者になりきり、データを窃盗・偽造する
- 改ざん/ハッキングやクラッキングを用いて、メタバースやユーザーのデータを書き換える
- 否認/不正行為の証拠を隠滅して、行為者を特定できなくする
- 情報漏洩/秘匿すべきユーザーの情報の窃盗もしくば暴露、流出させる
- サービス拒否/メタバースへの攻撃によりサービスの妨害やユーザーのデバイスを無効化する
- 権限昇格/管理者権限を奪い、メタバース上であらゆる不正をはたらく
(参考:総務省-Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会(第5回))
これらを制限する技術はまだ確立されていません。
価値あるNFTやトークンが奪われる、管理者権限が乗っ取られるなどの不正行為は、ユーザーと運営にとって大きな脅威になりえます。
不正行為に対するセキュリティが確立されなければ、普及はむずかしいでしょう。
メタバース依存のリスクを否定できない
メタバースに依存するリスクも否定できません。オンラインゲームやSNSに熱中しすぎるように、メタバースに対しても依存症に近しい状態に陥る可能性があります。
この動画のように週100時間ものあいだ、メタバースの世界に居続けるケースも。
また依存が進むと、現実と仮想現実が区別できなくなるファントムライムライン症候群などを発症するかもしれません。
依存を対象とした対策は、いまのところ開発側では立てられおらず、懸念を払拭できていません。
ゲームやSNSなどに依存してしまう人は多くいます。メタバースが依存先にならないよう、ユーザー側で工夫する必要がありそうです。
メタバースのリスクなどについて詳しく解説している記事があるので参考にしてください。
メタバースとAIに関するよくある質問
ここではよくある質問に回答します。疑問をお持ちの方は参考にしてください。
- メタバースはオンラインゲームの域を超えられますか?
- AIアバターとはなんですか?
- メタバースはいつ流行りますか?
- メタバースはオンラインゲームの域を超えられますか?
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メタバースは単なるオンラインゲームと変わらないと言われることがあります。ゲームの域から脱するには以下のような変化が必要でしょう。
- ゲーム性はなくとも楽しめるコンテンツになる
- 一般的なビジネスシーンでも、より本格的に活用できるようになる
- 建築業や医療業界など、ビジネス、メディカル面で技術発展に大きく寄与する
Clusterなどのメタバース(ゲーム)は一定の人気を集めています。
しかしまだビジネス上のテクノロジーとしては普及していません。2024年現在でも、導入すると「一歩進んだ取り組みを始めている」と珍しがられる状態です。
少なくともオンラインゲーム同様に、ビジネスシーンでも活躍した段階で、はじめて脱却できたと言えるでしょう。
実際に脱却できるかどうかですが、後述するアンケートの予測通りなら、数年後には単なるゲームではなくなっていると言えるでしょう。
メタバースはこれからのビジネスに欠かせない?活用事例とメリットを解説! メタバースは、インターネット上に構築された3Dの仮想空間です。 主にゲームやエンターテイメント業界で注目されていましたが、最近ではビジネス分野でも活用が広がって… - AIアバターとはなんですか?
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AIアバターには2つの意味があります。
ひとつは、自身の顔写真を読み込ませることで、ベースにした写真を何枚か生成するサービスとしてのAIアバター。
上記のように、より美しく見えるようブラッシュアップし、アウトプットするのが特徴です。
また、メタバース内に存在するAIを搭載したNPCを、AIアバターと呼称することがあります。
【無料】AIで写真から似顔絵に!2024年最新おすすめアプリ11選 | meta land SNSのプロフィールを自分の似顔絵にしたいけれど、どんなアプリを使えばよいか迷っている人向けの記事です。、本記事では、おすすめ11種類のアプリを紹介します。 - メタバースはいつ流行りますか?
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メタバースは、2019年ごろに一定の注目を集めました。しかし、2024年現在「メタバースの終焉」を語る記事が出る程度には、ブームが沈静しています。
ただし、1年から数年後に本格的なブームが到来すると見込まれています。
以下はビジネスパーソン400名に対して実施された「メタバースはいつビジネス的に流行するか」を問うたアンケートです。
全体の1/3が3〜5年後以降の流行を予測。また1/4は、1年以内〜3年後に流行り出すと予測しています。
したがってメタバースの本格的な流行は、早ければ1年後、遅ければ5年後よりも先になるとある程度は予想できるでしょう。
ただし3割近くが「流行しない」と予測しており、今後メタバースが注目されることはない、とも想像できます。
もしかしたら、2007年に話題になったものの、一般ユーザーには定着しなかったセカンドライフのような経過を辿るかもしれません。
まとめ
本記事ではメタバースとAIの関係性に関して解説しました。
最後に重要なポイントをおさらいしましょう。
- AIとメタバースが合わさると、デザインや設計が容易になる
- スマートコントラクトに代表されるWeb3.0的な技術も構築しやすくなる
- NPCのクオリティ向上などのメリットがある
- AIは音声入力によるメタバース上のオブジェクト生成など、あらゆる場面で活用され始めている
- AIとメタバースの組み合わせで急速に進化する一方、それに対応した法整備が追いついていない
- またセキュリティの脆弱性、依存リスクなども懸念材料ではある
近年台頭するAIはメタバースの開発や発展に対しても大きく貢献しています。多くのメタバースは、陰ながら人工知能の恩恵を受けているでしょう。
一方でAIとメタバースの結びつきがいくら強まろうとも、それを支える法律やセキュリティなどが整備されていないのが問題です。
この強力な技術の組み合わせに、人間が対応できるようになるまで、まだ時間はかかりそうです。