- 3Dデジタルツインとは何を指すのだろうか?
- メタバースと何が違うのだろうか?
- デジタルツインには何のメリットがあるのか?
- 逆にメタバースとは何なのか?
上記のような疑問を持っている人は多いでしょう。デジタルツインは今後の産業を大きく変えるすぐれた技術です。一方でメタバースと混合されがちで、正しく活用するにはこの違いを理解しなければいけません。
そこで本記事では以下の点を解説します。
- デジタルツインの基礎知識
- メタバースとの違い
- デジタルツインのメリット
- メタバースの特徴
本記事を読めば、混同されがちなデジタルツインとメタバースの違いを理解できます。ぜひ参考にしてください。
メタバースとは、オンライン上でアバターを使ってコミュニケーションをとれる仮想空間のことです。
ゲームだけでなくビジネス、教育、建築など、さまざまな分野で活用されています。
メタバース内ではアバターやアイテムがNFT化され、仮想通貨を使って取引されるケースも。
Meta(旧Facebook)や、マイクロソフトなどの大手企業がメタバース事業に参入しており、世界的に注目を集めています。
メタバースについて詳しく解説している記事があるので、参考にしてください。
デジタルツインとは?メタバースとの違いも
まずはデジタルツインとは何か正しく理解しましょう。そのあとでメタバースとの違いにも触れます。
デジタルツイン=現実の3Dモデルでシミュレーション
デジタルツインとは、現実世界の構造や製品、生産プロセスなどを、デジタルに再現したものです。実際に建築・製造する前に、それが物理的に問題ないかシミュレーションする目的で活用されています。
下記図のように、現実とデジタルがまるで双子のように見えることからデジタルツイン(電子的な双子)と呼ばれるようになりました。
(引用:NEC)
特別なセンサーなどで物理的な対象物からデータを収集し、デジタル上に描写。さらに温度や天候、経年劣化や消費されるエネルギーなども予測できます。
それをフィードバックとし、現実空間に反映させ、産業に役立てることが可能です。
メタバースやミラーワールドとの違い
メタバースとデジタルツインには、以下の違いがあります。
デジタルツイン | メタバース | |
---|---|---|
仮装デザインの方向性 | 現実世界を可能な限り忠実に仮想空間上に創造する。 | 必ずしも現実世界を再現しない。RPGのように、創作的な世界を作り出すことも。 |
テクノロジーとしての役割 | デジタルツイン上で得られた情報や知見を現実世界にフィードバックする。 | プラットフォーム上でゲームをしたり、NFTを作ったりして楽しむ。 |
利用目的 | 産業的。開発や製造の場面で使われる。 | 商業的。ユーザーにサービスを提供する目的で使われる。 |
またミラーワールドとの混同にも注意しましょう。ミラーワールドはデジタルツインと同様に現実世界をデジタル上に創造するものです。
しかしミラーワールドは、現実世界同様の機能を持ち、コミュニケーションを取ったり、ビジネス展開したりするために使われます。メタバースに近い概念だといえるでしょう。
つまりデジタルツインは、メタバースやミラーワールドと違い、予測や検証に使われる産業的な技術だと表現できます。
アバターさえも使わない
なおデジタルツインの場合は、アバターさえもほぼ必要ありません。
メタバースは仮装世界を理想的な自分の姿で楽しむものでもあります。そのために新しい自分、つまり以下のようなアバター作成が必要です。
(引用:Decentraland)
それはスタイリッシュな男性の姿をしている場合もあれば、あるいはアニメ調の美少女的な姿であることもあります。
デジタルツインはあくまでデータを現実世界にフィードバックするのが目的で、楽しむ必要はありません。したがってアバターも不要です。
デジタルツインのメリットとしくみ
メタバースとデジタルツインの違いがわかったところで、後者のメリットと仕組を解説します。
デジタルツインのメリットは「何度でもやり直せること」
デジタルツインのメリットとして、何度でもやり直せる点が挙げられます。あくまでもデジタル上に存在するからです。
たとえばあるビルを大規模に改修する必要があると仮定しましょう。そうすると、改修工事を実施して災害リスクがないか、どのような作業が必要かなど、ありとあらゆる点を想定する必要があります。
ここで役立つのがデジタルツインです。ビルそのもののデータを改修し、デジタル上に忠実に再現します。
そして実際にバーチャルで工事を実施し、やろうとしていることが物理的に可能なのか検証するのです。
このリハーサルを、デジタルで行うことで何度でもやり直すことが可能になります。
本来なら一発勝負のプロジェクトを何度も仮想空間でおこない、現実世界でのトラブルを防ぐことができます。
実現を支える5つのしくみと技術
デジタルツインはきわめて高度なテクノロジーです。これは、以下5つの技術によって支えられています。
- IoT/ありとあらゆるデバイスをインターネットにつなぐ
- AI/人間の知性をコンピュータ上で再現する
- 5G/4Gの20倍以上の速度で通信できる
- CAE/工業製品の製造を支援する
- VR/仮想空間をあたかも現実かのように体験できる
このようにデジタルツインは、現代(2020年代)の技術が複合することにより成り立っています。
この点は、過去にも存在したシミュレーションソフトとの違いを示唆しているでしょう。
たとえば2004年には、Microsoftからマイクロソフトフライトシミュレータ2004が販売されていました。もちろんこの時代にloTも5Gもありません。
だから同シミュレータでできることは、非常に限られていました。
しかし現代のデジタルツインは、たとえばVRデバイスを使い、あたかもデジタルの世界がが現実であるかのように知覚できるなど、高度なアクションが取れるようになっています。
デジタルツインの歴史的起源は50年以上前
デジタルツインの歴史は、なんと1970年代にまで遡ります。当時、米国はアポロ13号を宇宙空間へ飛ばし、月面着陸を成功させました。
しかし当該機体にはネジの閉め忘れがあり、それが原因で酸素タンクが爆発。しかも現場は月面で、誰も干渉できず、アポロ13号は致命的な損傷を負ったまま帰還することを求められました。
一方で地上では、NASAがアポロ13号のレプリカを製作し、損傷を負った状態で、どうすれば地球に帰還させられるか検討。その結果、数少ない成功パターンを発見し、無事損傷したアポロ13号を回収しています。
その後アポロ13号の事例を踏まえ、米ミシガン大学に属するマイケル・グリーブスが、現代のデジタルツインの原型となる概念を提唱しました。
以後、テクノロジーの進化によってグリーブスの構想が少しずつ実現化され、現在ではあらゆる産業で利用されるようになっています。
現代での製造・開発での活用事例
デジタルツインは、すでに日本でも多数の活用事例があります。日立製作所の大みか事業所では、工場管理の目的で活用。
工場内の従業員やモノに追跡用タグ”RFID”をつけたり、カメラを設置したりして情報を収集。それに基づき生産ラインそのものをデジタルツインとして再現し、進捗把握や故障などの発見などに活用しています。
(引用:日立製作所)
これにより大みか工場は、主力製品の生産から出荷にかかる時間をおよそ50%短縮しました。
とはいえ、ここまで本格的にデジタルツインを用いて成功している企業は決して多くありません。
今後はより導入ハードルを低くして、より多くの場面で活用できるようにすることが、課題だといえそうです。
これからデジタルツインでできること
今後デジタルツインの普及がすすめば、以下のようなことが実現されるでしょう。
- リードタイムの短縮
- よりよい設備・住宅作り
- メンテナンス作業のスムーズ化
- 刺激的なアイデアの誕生
最も注目されるのは、開発・生産で重要な概念であるリードタイムを短縮できること。これはもちろんコスト削減に繋がります。
また事前にデジタルツインでシミュレーションしておけば、設備や住宅などもより高い品質水準で製造・建築できるでしょう。
デジタルツインは、アイデア次第で無限の可能性を秘めたテクノロジーだと言えます。
課題やデメリットもないわけではない
一方でデジタルツインには、課題やデメリットもあります。
- デジタルツイン制作に求められるスキルのレベルが高い
- 膨大な量のデータ収集が必要
- シミュレーションを守らないと何の意味もない
まずデジタルツインを制作するには、先ほどの日立製作所大みか事業所のように、高水準な専門技術と大量のデータが必要です。
もちろん多額のコストがかかり、導入するには相当な準備が必要です。
また、現実がシミュレーションどおりだとは限らない点にも注意する必要があります。
福島原子力発電所が、30m高の津波をシミュレーションしていなかったように、デジタルツインを持ってしても予測できない事象がありうる点を踏まえて活用しなければいけません。
メタバースにも注目しよう
デジタルツインとともに、メタバースにも注目する必要があるでしょう。
主に個人ユーザーが楽しむ目的で運用されているサービスですが、企業が商業的に活用するケースもあります。
ここではメタバースの定義や、デジタル庁からの注目度、あるいは産業的に応用できる可能性などを解説します。
メタバース=アバターで踏み込む新仮想世界
メタバースは、現実世界とは別に作られた新しい仮想世界を示します。デジタルツインのように現実を忠実に再現するのではなく、理想的な世界が描かれているのが特徴です。
たとえばStarAtlasというプラットフォームでは、宇宙船で星間を飛び回る仮想世界が構築されています。
同時にメタバース内には社会や経済が存在するのも特徴。ユーザーはNFTアイテムを作って販売したり、店舗やテーマパークを構えてビジネスを展開したりすることが可能です。
またメタバース内に広告を出稿し、自社の存在をアピールするケースも。
デジタルツインはまた違った方向で、企業活動の一部として活用できるといえるでしょう。
デジタル庁も注目するメタバース
日本のデジタル庁は、メタバースに対してかなり高い関心を持っています。
そもそも日本はWeb3.0時代に対応するため、数多くの研究会を立ち上げるなどして、その活用法を追求してきました。
(引用:Yahoo!)
たとえば同会の報告書によれば、メタバースの活用を関係各所が検討しているそうです。
またメタバースで購入した資産を法的にどう定義するか、といった点も議論されていました。
法律を変える可能性にまで言及しているのは、デジタル庁がメタバースとの関わりを避けられないと考えている証拠でもあります。
なおWeb3.0研究会は2022年10月から週1回のペースで開催され、毎回相当な掘り下げがおこなわれている議会です。
デジタル庁に報告書が公開されているため、政府方針を確認したい場合は参考にするのをおすすめします。
インダストリアルメタバースで産業も変わるかもしれない
インダストリアルメタバースは、主に産業目的で、現実世界をそのままメタバース内に写し込むことを意味します。
アポロ13号にルーツを持つデジタルツインとは成り立ちが異なるものの、実際にやっていることはほぼ同じです。
たとえば工場の生産ラインを新しく設置する場合を考えてみましょう。この場合、以下の点を検証する必要があります。
- 想定される速度・効率で生産されるのか
- 動線などに物理的な矛盾が生じないか
- 最も効率的な設備の配置はどのようなものか
- 事故は起こらないか etc.
これを現実世界で実行するとなると、設備を配置したり、実際に製造したりする必要があります。
もちろんコストとリソースには限界があり、よい結果が得られるまで何度も繰り返せません。
しかしインダストリアルメタバースであれば、これを何度でもやり直し、最適な生産ラインの在り方を追求できます。
要は先ほど触れたデジタルツインと、ほぼ同等のメリットが得られるでしょう。
IoTとの親密度がとてつもなく高い
メタバースとIoTは、互いに関連している重要なテクノロジーです。
IoTは、パソコンのみならずあらゆるデバイスをインターネットに接続する技術を指します。これがメタバース組み合わさった場合、たとえば以下のような効果を得ることが可能。
上記にようにメタバースとIoTが融和すれば、Web2.0時代にはあり得なかったあらゆるアクションを取ることが可能です。
これは企業から見ても、新しいビジネスや商品を生み出すうえでのヒントとなるでしょう。
メタバースは将来さらに普及するテクノロジー
メタバースは、将来さらに普及するテクノロジーとして注目されています。その理由はいくつかありますが、やはり多額の投資を得ているのが大きいでしょう。
Facebookを運営するMeta社のトップであるマーク・ザッカーバーグは、2021年に「これからは1年に1.5兆円、メタバースに投資する」と述べました。つまりメタバースは、2020年のフィンランド国家予算に相当する金額の投資を受けることとなります。
まとめ:新時代を作るデジタルツインと新世界を作るメタバース
本記事では、デジタルツインの特徴やメタバースとの違いに関して解説しました。最後に重要なポイントをおさらいしておきましょう。
- デジタルツインとは、現実世界をできるだけ忠実に再現したもの
- ツイン(双子)というだけあって、現実世界をそっくりそのまま再現する
- デジタルツインでの検証結果を現実世界にフィードバックし、開発や製造に活かす
- 一方でメタバースは、現実世界とは異なる新しい生活や経済を楽しむための概念
- デジタルツインのメリットは、何度でもやり直しがきく点にある
- 一方でメタバースも著しい成長過程にあり、デジタルツイン同様に注目する必要がある
デジタルツインは、現実世界をそのままデジタル上に描写し、これから起こることを極めて正確に予測する優れたテクノロジーです。やり直しが効かない大規模な開発や製造において、あらかじめ結果を予測するうえで役立つでしょう。
一方で新しい生活や経済が形成されるメタバースも、デジタルツインとは役割が違えど、ビジネス的に利用価値の高いサービスです。企業からしてみれば、広告を出稿したり、デジタル上で商品販売したり、新しい戦略が開拓するチャンスでもあります。
今後も両者に注目する必要がありそうです。