近年では、AIツールを使って、画像や動画を出力するのが当たり前になりました。すでにビジネスや創作などで活用している人も多いでしょう。
そして2023年後半から、AIを使って漫画を出力する試みがなされるようになりました。今後はAI漫画が雑誌で連載されるような時代になるかもしれません。
しかし、
- 本当にAIで漫画が描けるのか?
- 描けたとして、どの程度のクオリティなのか?
- AIにストーリーや構図などを考えさせるのは不可能では?
といった疑問を持っている人は多いでしょう。結論から言うと、AIを活用して書かれた漫画はすでに存在します。ただし現状はまだすべての行程をAIが担うことはできません。
そこで本記事では、AI漫画の具体例を中心に進化の度合いを解説します。また漫画を描けるアプリやサービス、具体的な描き方なども解説しているので参考にしてください。
AI漫画はどこまで進化した? 実例に基づいて詳しく解説
まず、AI漫画について以下のように解説します。
- AI漫画=人間が書く下書きとAIによる仕上げの合作
- AI漫画の実例/慟哭の天蓋
- AI単独で本格的な漫画を描くのは現時点ではほぼ不可能
AI漫画の進歩は少し複雑であり、想像しているものとは違うかもしれません。現在、どのような状態にあるのかおさえておきましょう。
AI漫画=人間が書く下書きとAIによる仕上げの合作
AIによって生成された画像を使って漫画を描く試みは、少しずつ進められています。
ただし今の段階では、「AI単独で漫画を描いている」わけではありません。あくまでも人間とAIが合作したものを、AI漫画と呼んでいる状態です。
SF作家の安野貴博氏は、AIを使って漫画を制作し、それがABEMAニュースで取り上げられました。
しかし上動画では、「プロット(ストーリー)を考え、ネーム(下書き)を書き、それをAIに読み込ませた」と語っています。つまり大部分は人間が考え、仕上げの部分をAIがやっている状態です。
AI漫画といっても、人工知能が、興味深いストーリーや演出を考えるなどしているわけではありません。
AI漫画の実例/慟哭の天蓋
AI漫画の実例として、慟哭の天蓋が挙げられます。
出典:ねとらぼ、Ryo Sogabe
これは映像制作者のRyo Sogabe氏が、画像生成AIツールMidjourneyを活用して制作したAI漫画です。
文明が崩壊した世界で、「天が降ってきた」という設定が持ち込まれ、近未来的な兵器が戦うようすが描かれています。ただしあくまでも試験的な作品であり、ページは数枚で、継続的に描かれているわけではありません。
しかしそのクオリティの高さから注目が集まり、ねとらぼをはじめとしたメディアで取り上げられるほどの事態になりました。また、「ぜひ続きを読みたい。本格的に連載してほしい」といった声も上がっています。
プロの漫画家が描いた作品と比較しても、見劣りしていません。
YouTubeコンテンツとしてAI漫画
AI漫画といえば、AIが描いた漫画と思う人が大半でしょう。しかし近年、YouTube動画でAI漫画というジャンルが誕生しています。
YouTube動画でのAI漫画は、画像生成AIツールで出力した画像にストーリーをつけてそれを一本の動画にしたもの。多くの作品はラブコメを主体としています。
すでに一定の人気を集めているようで、同ジャンルでもっとも人気のあるAI漫画ドキドキは、2024年2月現在、1.5万人以上のチャンネル登録者を集めています。
画像生成のスキルがあれば、ストーリー制作者と協力し、同様のコンテンツを発信するビジネスを作れるかもしれません。
AI単独で本格的な漫画を描くのは現時点ではほぼ不可能
残念ながらAI単独で漫画を描くのは、現時点ではかなり厳しいでしょう。感動的だったり、示唆深かったり、興味を引くようなストーリーを考えるのがむずかしいからです。
例えば漫画鬼滅の刃では、主人公が家族を鬼に殺され、妹も鬼に変えられてしまい、復讐のため剣士として戦うストーリーが描かれます。
また、師にあたる人物が戦死する、主人公が身につけている耳飾りの秘密が明らかになるなどの出来事も。
しかし現在のAIには、このような複雑なストーリーを考え、漫画にするほどの能力はありません。さらにコマ割りや演出、カメラアングルや色使いなどを緻密に計算することもできないでしょう。
先述した慟哭の天蓋も、ストーリーやコマ割りは、AIが考えたわけではありません。
人間が描いた漫画と同程度のアウトプットが得られるまでは、まだまだ時間がかかりそうです。
イラストを描くのは簡単
漫画を描くのはむずかしいですが、一枚絵のイラストを描くのはAIが得意とするところです。先述の慟哭の天蓋の画風は、一般的な漫画と比較しても遜色なく見えるでしょう。
また画像生成ツールによって、得意とする作風が違います。たとえばNovel AIは、アニメ風のキャラクターや風景を出力するのが得意。
最新のソシャゲなどと比較して遜色ないイラストが出力されています。プロンプトしだいでは、これ以上のクオリティを確保することも可能です。
人間がきちんとプロットやネームを考案し、このようなイラストを組み合わせていけば、美しい漫画作品を制作できるでしょう。
もし創作活動などを本格的に進めるなら、ストーリーを考えること、そしてイラストを上手に出力することがポイントになりそうです。
AI漫画を描く方法5ステップ
AI漫画を描くステップはやや複雑ですが、決して不可能ではありません。具体的には以下5つのステップで説明できます。
- プロットを考える
- ネームを作る
- 可能な範囲で下書きを作る
- AIに読み込ませてプロンプトを入力する
- アウトプット内容を確認する
ほとんどのAI画像生成ツールで、上記の手順を実行可能です。今回はもっとも手軽に漫画を制作できるYouCam AI Proを利用します。
プロットを考える
まず、プロットを考える必要があります。プロットは漫画家や小説家のあいだで使われる専門用語で、「ストーリーの骨組み」のような意味です。
プロットを考える段階では、以下を決定しましょう。
- 登場人物/誰が主人公か、その周囲には誰が登場するか
- 世界観/現代、未来、過去、ファンタジー、どの世界での物語であるか
- ストーリー/何が起こり、最終的にはどのような結末を迎えるか
- 画風/ポップ、リアル、萌え系、どのような路線であるか
本格的な作品では、他にも細かいことを考える必要があります。
ただ、ほとんどの人は4コマや数ページ程度の漫画の生成を前提にしているでしょう。その範囲であれば、上記だけ決めておけば問題ありません。
また、人気アニメRAVEやFEARY RALEの作者である漫画家真島ヒロのYouTube動画も参考になります。
プロットの作り方がわからない場合は上記の動画を見てみましょう。
ネームを作る
続いてネームを作りましょう。ネームとは、セリフやコマ割りなどを大雑把に示したモノです。
こちらの動画が参考になるでしょう。登場人物の外見や背景などを書く必要はありません。
動画内のように、点と線だけの表現でも十分です。
可能な範囲で下書きをする
もし一定の画力があるなら、以下のような下書きをネームに入れていきましょう。
- 登場人物の外見
- モノのディティール
- 集中線などの効果
- 「ドン!」などに代表される効果音の表現
- おおまかな背景
ただしネーム以上の画力がない場合は、かならずしも下書きする必要はありません。
AIに読み込ませてプロンプトを入力する
ここから人間ではなく、AIが作業を進めるフェーズに入ります。事前に下書き(ネーム)を1コマずつ撮影し、パソコンに取り込んでおきましょう。
今回は先述のとおり画像生成AIスマートフォンアプリのひとつ、YouCam AI Proを使用します。このアプリ以外にも、MidjourneyやStable Diffusionなどを使ってもかまいません。
YouCam AI Proをインストールしたら、まずは描いたラフ画をアップロードします。下図のように、「写真を追加」を選択しましょう。
ラフ画を追加したら、画面上部のボックス内にプロンプトを入力しましょう。YouCam AI Proの場合、「白黒、漫画風」と入力します。その他背景や登場人物のディティールなども入力可能です。
また、スタイルは2Dアニメを選択します。最後に生成ボタンを押します。
アウトプット内容を確認する
今回の場合、何度かの再生成を繰り返した結果、以下のアウトプットが得られました。
ラフ画と簡単なプロンプトだけで、これだけのクオリティのコマを生成できます。あとは続きのコマを同じ手順で漫画にしていきましょう。
ただし上図のとおり「白黒」と指定しているのに、色がついたイラストを生成してしまうこともあります。このあたりは何度も再生成する、プロンプトを調整するなどして、こちらの意図が反映されたアウトプットを得るための努力が必要です。
出力されたコマに、吹き出しをつける、効果音を入れる、ストーリーの解説を挟むなどすれば、誰でも簡単に漫画を描くことが可能です。
AI漫画に関するよくある質問
本記事ではNovel AIに関して解説しました。ここではよくある質問に回答します。
- AIが単独で書いた漫画を楽しめるようになるのはいつ?
- 作者が死去して打ち切りになった漫画の続きを書くことは可能?
- AIをうまく操作できないときはどうすれば?
- 描いた漫画の著作権はどう扱われる?
- AIが単独で描いた漫画を楽しめるようになるのはいつ?
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AIが描いた漫画を楽しめるようになる時期は、まだ見通しが立っていません。ただ、AI単独で描けるようになるまでは以下のハードルをクリアする必要があります。
- AIがストーリーを考え、それがある程度面白いものである
- 笑い、感動、恐怖などの感情を理解して表現できるようになる
- コマ割りや演出、カメラアングルまで計算できる
- 登場人物の役割や世界観の設定などを理解し、それを物語の完結まで保ち続けるetc.
このようにAIが単独で漫画を完成させるには、人間の持つ感情や感性を理解するほどの進化が求められます。現代でもAIは目覚ましい進化を遂げていますが、それでもまだ不足があるでしょう。
- 作者が死去して打ち切りになった漫画の続きを書くことは可能?
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プロの漫画家などが協力する環境下ならば可能かもしれません。実際、手塚治虫による医療漫画ブラックジャックの新作を、AIによって生成するプロジェクトが実施されています。
まず、AIにブラックジャック本編の内容を学習させたとのこと。つまり作品のがどのような話か、主人公のブラックジャックがどのような人物であるかをインプットしています。そのあとでAI自身に、ストーリーを考えさせています。
出典:手塚プロダクション そして上図のように、ブラックジャック本編に近い作画が再現されています。
実際にブラックジャックを読んだことがあるmetalandのスタッフに、上図をAIが描いたことを伏せたうえで感想を聞いたところ、「ブラックジャックの本編のどこかのコマだろう」というコメントが得られました。
またAIが描いたことを明かすと、「手塚治虫本人が描いたとしか思えない」とも語りました。
しかしプロジェクトに関わる技術者によれば、「ストーリーが少し雑」「微妙にタッチが違う」といった問題点があるそうです。また、「どれだけAIが頑張っても、手塚治虫が作り出す世界観には程遠い」とも。
作者の死去により続きが描かれなくなった作品を、AIで描くこと自体はできそうです。しかし、「あの作者の後継としてふさわしい」と認められるには、まだまだ時間がかかるでしょう。
ちなみに、連載が滞りがちなHUNTER×HUNTERの続きのストーリーを、AIで生成するといったことも技術的には実現可能です。
- 作者が死去して打ち切りになった漫画の続きを書くことは可能?
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AIをうまく操作できないときは、プロンプトを見直すのが有効です。以下のような方法を試してみましょう。
- いったんシンプルなプロンプトに戻してみる
- 逆に、可能な限り明確で詳細な指示を出す
- 一度に多くのプロンプトを入力せず、小分けにして指示を出す
- 呪文生成ツールやWikiを使って、プロンプトを生成する
- プロンプトにスペルミスがないか見直す
こういったことを試していけば、AIをうまく活用できます。
以下のように大量のプロンプトだけをまとめたWikiもあります。
出典:AIイラスト図書館 プロンプトが思いつかないときは参考にするとよいでしょう。
- AIをうまく操作できないときはどうすれば?
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2024年2月現在の法制度において、AI漫画を制作した人が著作権を主張できるかどうかはっきりとしていません。
これがもし漫画ではなくイラストや画像なら、基本的には著作権は主張できません。一般社団法人生成AI活用普及協会は、以下の趣旨の見解を述べています。
- 著作物とは、作成者の何らかの思想や感情を表現がなされたものである
- AIツール(Novel AI)で画像を生成する際、プロンプトなどの指示はあっても、思想や感情の表現は関与していない
- つまり、AIツールで作られた画像は、著作物ではない
- 著作物ではないので、(通常は)著作権を主張できない
つまり「自分で描いたわけではないから著作権は主張できない」わけです。
しかし漫画の場合は、プロットを考える、登場人物の人格を決める、世界観を構築することが「思想や感情の表現」に該当するかもしれません。もしそれが認められれば、AI漫画が著作物であり、著作権も主張できる可能性があります。
AI漫画に関しては専門機関による見解や判例が出揃っておらず、判断がむずかしい部分があります。ただ現時点では、「著作権を主張できる保証はない」ことを念頭に置いておきましょう。
まとめ
本記事ではAI漫画に関して解説しました。最後に重要なポイントをおさらいしましょう。
- 現在ではAIを利用した漫画の制作が、少しずつ現実化に向かっている
- 実際に「慟哭の天蓋」などの実例も生まれている
- 故手塚治虫氏の著作「ブラックジャック」の続編がAIによって制作されるなどの試みも
- ただし現状では、人間とAIによる「合作」にとどまるのがAI漫画の現在地
- 人間がネームや下書きまで作り、仕上げをAIが代理するイメージ
- AI漫画自体は、ある程度の知識があれば誰でも簡単に生成できる
AIツールの普及によって画像や動画が簡単に生成できるようになりました。そして今、漫画までもがAIによって制作できるようになりつつあります。
まだ、プロットの考案やネームの作成など、AIでは対応できない部分はあります。しかし今後もAIツールの進化が続くならば、AI単独での漫画の制作が実現するかもしれません。
また本記事で紹介したとおり、AI漫画は、プロットを作る、ネームを描く程度の創作力があれば誰でも制作できます。ぜひAIツールを使って、オリジナルの漫画をアウトプットしてみましょう。