世界最大規模の印刷会社である凸版印刷とメタバースが結びつくイメージを持つ人は、どれくらいいるでしょうか。
- 凸版印刷のメタバース事業とは?
- 手がけるサービスの詳細を知りたい
- 技術の発展はどこまできているの?
結論からいうと、凸版印刷のメタバース事業は業界の最先端を走っています。
今回は初心者でもわかりやすいように、凸版印刷のメタバース事業内容を詳しく解説します。
ショッピングモールから生体認証まで、驚きの技術を紹介しているので、ぜひ最後までご覧ください。
メタバースとは、オンライン上でアバターを使ってコミュニケーションをとれる仮想空間のことです。
ゲームだけでなくビジネス、教育、建築など、さまざまな分野で活用されています。
メタバース内ではアバターやアイテムがNFT化され、仮想通貨を使って取引されるケースも。
Meta(旧Facebook)や、マイクロソフトなどの大手企業がメタバース事業に参入しており、世界的に注目を集めています。
メタバースについて詳しく解説している記事があるので、参考にしてください。
凸版印刷によるメタバース事業の特徴
凸版印刷のメタバース事業の特徴を4つ紹介します。
- 凸版印刷は印刷テクノロジーに特化した世界最大の印刷会社
- 凸版印刷の強みはセキュリティ技術と表現技術
- BtoBtoCのビジネスをメタバースで実現
- 国策的なデジタル化の取り組みを目指している
順に見ていきましょう。
凸版印刷は印刷テクノロジーに特化した世界最大の印刷会社
凸版印刷は1900年に創業した日本最大級の印刷会社です。
現在は「情報コミュニケーション事業」「生活・産業事業」「エレクトロニクス事業」の3分野にわたり幅広く事業を展開しています。
情報コミュニケーション事業 | セキュリティシステムの提供コンテンツマーケティングBPO関連など |
生活・産業事業 | パッケージ関連建装材関連高機能・エネルギー関連など |
エレクトロニクス事業 | 半導体関連ディスプレイ関連など |
凸版印刷が取り組むメタバースは「情報コミュニケーション事業」の一環です。ビジネスとメタバースをつないで社会問題解決の一端を担っています。
1990年代から3次元仮想世界に取り組んでいた
凸版印刷の3次元仮想世界構想は、実は1990年代には始まっていました。1994年に日本初のECサイト「サイバーパブリッシングJAPAN」を開設。
1998年には「WorldChat/J(ワールドチャット ジェイ)」というコンシューマー向けの3Dテクノロジーを用いたバーチャルコミュニケーションサービスを提供しています。
テキスト主流のインターネット創業期に、仮想空間での出会いやコミュニケーションにチャレンジしていました。
凸版印刷は、20年以上に渡りバーチャル空間構築を行っており、強みであるセキュリティ技術と表現技術を組み合わせて、独自性のあるサービスを提供しています。
参照:日経新聞|凸版印刷が「WorldChat/J3」リリース/1998年
凸版印刷の強みはセキュリティ技術と表現技術
凸版印刷には、CADデータからリアルかつ高精細な3Dデータを生み出す独自のレンダリング技術があります。
1998年には、15世紀末にヴァチカンに立てられた「システィーナ礼拝堂」を再現。
さまざまな文化財を計測し、デジタル空間上に再現するVR・ARの生成技術などに強みがあります。
圧倒的な映像クオリティは、国内外から高い評価を受け、学術価値を持った新しい表現手法として認められています。
一般の人が立ち入れない文化財や、失われてしまった文化財をデジタルで復元。文化事業で大きく貢献しています。
こちらはVRで安土城を再現したプロジェクトのダイジェストです。
セキュリティに関しては、ブロックチェーンや電子透かし印刷の技術でアバターのなりすましを防ぐなどの技術を開発しています。
BtoBtoCのビジネスをメタバースで実現
凸版印刷は、もともとBtoB(企業から企業)のビジネスを中心に売上を伸ばしてきました。企業がビジネス活動をおこなうためのメタバース空間の構築などは、典型的なBtoBビジネスです。
それらを起点とし、メタバース上のショッピングモール(メタパ)では、将来的に生活者一人ひとりとつながるBtoC(企業から顧客)を想定したサービスを開始しています。
国策的なデジタル化の取り組みを目指している
凸版印刷の技術は、政府が掲げている「Society5.0」のなかで描かれている、CPS(Cyber Physical System)の実現に寄与するものです。
現実世界(フィジカル)で収集したデータを仮想空間(サイバー)と融合させ、分析や解析をおこなう。その情報を現実世界(フィジカル)へフィードバックすることで最適化を図る仕組み。
例えば人や車の位置情報を収集し、公共交通機関の最適な運航に活用する、店内の込み具合や温度情報から照明や空調を制御するなどに使われます。
サイバー空間と現実世界(フィジカル空間)を融合させ、豊かな「超スマート社会」の実現を目指しているのです。
2025年日本国際博覧会運営プロデューサーの石川勝さんは、凸版印刷の担当者との対話で次のように語っています。
「リアル(フィジカル空間)のイベント会場をバーチャルでオンライン上(サイバー空間)に再現し、リアルの人の動きにリンクしてサイバー空間のアバターも動く——そうしたことが可能になります。出展者はサイバー空間のデータから、来場者のプロフィールとともに会場での行動履歴をとらえ、その人の興味・関心を把握し、リアルの会場で相手に合わせた情報を提供する。こうした展開ができます。」
引用元:TOPPAN BiZ|サイバーフィジカルが導く新しい価値共有とは
メタバースは単なるコミュニケーションツールではなく、国策の一端も担っているといえます。
参照:経団連|Society5.0とIOT等への取り組み
凸版印刷の代表的なメタバース事業5選
凸版印刷が手がける代表的なメタバース事業を5つ紹介します。
- メタバースプラットフォーム:MiraVerse
- ショッピングプラットフォーム:メタパ
- デジタルツイン型サービス:デジタルツイン・ワールドトリップ
- アバター生成システム:メタクローン
- アバター管理プラットフォーム:AVATECT
順に見ていきましょう。
1.メタバースプラットフォーム:MiraVerse
現実空間の色味や質感などを正確に取り組んだメタバース空間、MiraVerse(R)。
2022年4月に提供されたメタバース空間は、商談や協業作業などビジネスコミュニケーションを想定して構築されています。
アイディアや図面段階の試作品など実在していないものもデータをもとに構築でき、ショールームとして利用可能です。
またデータ管理機能・改ざん対策・なりすまし防止・アバターの本人認証などもおこなわれるため、安全なビジネス活用が期待できます。
国宝や重要文化財を観覧できる美術館
MiraVerseは、ショールーム以外にも美術館や展示にも利用できます。
色や質感を高精細撮影し、色彩計測などでデジタルアーカイブしたデータをメタバース上に忠実に再現。
作品の裏面を見ることも可能で、現実世界では味わえない体験ができます。
複数人での同時鑑賞や多言語での解説も可能です。また場所の制約がないため、多くの名作を一気に展示することもできます。
MiraVerseを構築するための費用は、初期データ登録料500万円〜/空間、スペース利用料月50万円〜/空間となっています。
参照:凸版印刷、ビジネス向けメタバースサービス基盤「MiraVerse®」を開発
凸版印刷はファイナルファンタジーXVのディレクターを務めた田畑氏が立ち上げたメタバーススタジオJP UNIVERSEと事業提携。
「MiraVerseとRYUGUKOKUとの相互運用を始めました。
ビジネス向きのMiraVerseとゲーム要素を持つRYUGUKOKUとが、それぞれの強みを活かすことが目的。
ファッション・イベント・美容・スポーツなど、エンターテインメント領域にも展開させる予定です。
2.ショッピングプラットフォーム:メタパ
スマートフォンから気軽にアクセスできるメタバース上のショッピングモール、メタパ。
複数の店舗をショッピングモールのように集約させています。3DCGで再現した商品をAR機能を使って実寸大で確かめたり、商品特徴をCGアニメーションで見たりできます。
利用方法は、アプリをダウンロードしてアカウント登録するだけ。アバターを選び、アプリ内でショッピングを楽しめます。
家族や友達と一緒に、店員さんとの会話を楽しむなど、リアルとバーチャルを融合した体験が可能です。
メタパの機能を表にまとめました。
機能 | 詳細 |
提供形態 | アプリ |
対応端末 | Android、iPhone、iPadブラウザ版も2023年5月に実装 |
アバター | テンプレート18種類 |
ルーム | 1ルーム最大50人 |
VR商品 | 1店舗あたり最大30点 |
AR | 原寸大サイズでAR表示 |
コミュニケーション | テキストチャット音声チャットビデオチャット |
1店舗当たりの出店費用は300万円から。中小企業や小規模事業者でも出店できるよう、国のIT導入補助金の対象となっています。
メタパに出店している店舗
メタバにはソフトバンク、コクヨ、住友不動産、桃太郎JEANS、SBI新生銀行など大手企業が出店。
店舗だけでなく、ライブや大型ビジョンでCM再生などができるイベントエリアや、中小企業用の簡易出店エリアなども用意されています。
テレビ朝日の通販サイトも出店しており、メタパ内ではフォトスポットでの記念撮影や、番組で扱った商品(3D)の閲覧も可能です。
今まではアプリをダウンロードしたうえで、スマートフォンやタブレットからしかアクセスできませんでした。
しかし、2023年5月にブラウザからのアクセスも可能に。URLから直接アクセスができ、より手軽にメタパを体験できるようになりました。
新機能として次の3つが加わりました。
- 商品の色やパターンを変えるシミュレーション機能
- 画面共有機能
- ビデオ通話機能
コミュニケーションのチャンネルが増えることで、よりリアルとバーチャルが融合します。
凸版印刷は2025年までに100店舗の出店を目指しています。
3.デジタルツイン型サービス:デジタルツイン・ワールドトリップ
デジタルツイン・ワールドトリップは、リアルの空間を仮想空間上に再現し、リアルタイムで現地とつながる遠隔体験サービスです。
現地を自在に動き回れるIoANeckを装着したガイドや分身ロボットが仮想空間内に再現され、現地のリアルを体験できるのが特徴。
音声通話、テキストチャット(多言語翻訳付き)、スタンプなどでコミュニケーションが可能です。利用用途は次のようなケースを想定しています。
- 工場見学
- ライブコマース
- 不動産販売
- 文化遺産・観光名所めぐり
2023年4月から9月末までNTT西日本と実証実験を行っています。
参照:凸版印刷|凸版印刷、デジタルツイン型メタバースサービス「デジタルツイン・ワールドトリップ®」を開発
デジタルツインとは、現実世界の構造や製品、生産プロセスなどを仮想空間上に再現したもの。
本物そっくりであることからデジタルツイン(=電子的な双子)と呼ばれる。シミュレーションなど、主に産業開発が主な用途。
デジタルツインについて詳しく解説している記事があるので、参考にしてください。
4.アバター生成システム:メタクローン
メタクローンアバターは1枚の写真をアップロードし、身長と体重の情報を入力するだけで、フォトリアルアバターを再現できるサービスです。
自分にそっくりなアバターを作成し、メタバース上で使用できます。
3Dアバターの出力形式をFBX・GLB・gLTF・VRMから選択できるので、多様なプラットフォームでの利用が可能です。
ほかにも次のような特徴があります。
- 白黒写真からカラーへ合成可能
- ピントが合っていない低解像度の写真からも合成可能
- 架空の人物の写真から肖像権フリーのアバター利用が可能
- メガネなどのアクセサリーも選択可能
- 歩く・挨拶するなどの基本モーションを付与
またイベント会場などで、その場でアバターを作成できるMetaCloneスタジオも開発。
本人そっくりなアバターを使った試着やイベント参加など、新しい体験価値を生み出しています。
今後、本人の肉声や表情、人格を再現するサービスが追加予定です。
参照:凸版印刷|イベントなどでバーチャルファッション体験ができる「MetaClone®スタジオ」を提供開始
参照:TOPPANBiZ|3Dアバター自動生成サービス「メタクローン®アバター」
5.アバター管理プラットフォーム:AVATECT
AVATECTは、作成したアバターが本物であることを証明し、なりすましを防ぐためのアバター生成管理基盤です。
アバター本体の管理や本人認証に加え、NFTや電子透かしを付与します。
買い物など金銭的なやり取りが発生する際や取引先との商談、重要会議など、限られたアバターしか立ち入りを許されないシーンで効果を発揮します。
生体認証技術でなりすましをブロック
MiraVerseとAVATECTは、相互に連携する仕組みで、安全性や信頼性、リアリティーを兼ね備えたものを目指しています。
また、スマートフォンのカメラなどで生体認証ができる技術を持つノルミーと提携。生体認証もおこなえるようになりました。
ノルミーは世界初のCC認証を取得しており、スマートフォンのカメラで容易に掌静脈認証が可能です。
CC (Common Criteria) は国際基準規格で、指紋認証を上回る高い精度を持ちます。
参照:凸版印刷、生体認証を実装したメタバースの実現に向けてノルミーと協業
凸版印刷はなぜメタバースを活用するのか?3つの理由を解説
凸版印刷のメタバースへの取り組みは、本腰を入れたものであることがわかります。
凸版印刷がメタバースを活用する理由を3つにまとめました。
- 新たなビジネスの創出
- メタバースから得られたデータの活用
- 紙からデジタルへの転換
順に見ていきましょう。
1.新たなビジネスの創出
今までコミュニケーションの場であったメタバースは今後、生活や経済活動に大きくかかわってくると予想されます。
メタバース内での土地の売買やアバターの服の売買、イベントへの参加やリアルな商品のプロモーションなど、国内市場にとらわれない新たなビジネスが創出されるでしょう。
凸版印刷は、コンサルティングから制作、実装、サービス提供までの一連のサービスすべてにかかわれるだけの技術を持ち合わせています。それらを新しいビジネスチャンスに結びつける狙いがあると言えるでしょう。
セキュリティや互換性などの課題解決にも取り組んでおり、メタバースビジネスへの本気度が伺えます。
2.メタバースから得られたデータの活用
メタバース上の人々の行動データは、サービスの改善やビジネスに活用可能。WebサイトやSNSから得られるデータに比べ、膨大な情報量を取得できます。
メタバース上でユーザーに商品やサービスを試してもらった場合、行動や感情面のまで多様なデータを収集でき、商品改善に活用できるのです。
3.紙からデジタルへの転換
もともと印刷会社である凸版印刷は、印刷業から「情報を加工する産業」への転換を目指しています。
これには印刷事業で培った情報加工業務が、デジタルと親和性が高いことも関係しています。
原稿作成、レイアウト設計、色彩再現、イベントの運営代行、コンテンツデータのアーカイブなど、印刷事業にまつわる情報加工業務は、デジタルに置き換わってもなくなることがありません。
それどころかDX化をサポートする業務が新たに生まれています。
凸版印刷のメタバースに関するQ&A
凸版印刷のメタバースに関する、よくある質問をまとめました。
- 凸版印刷のメタバースとは?
- メタパの出店費用は?
- 凸版印刷のライバル企業は?
順に見ていきましょう。
- 凸版印刷のメタバースとは?
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凸版印刷が手がけるメタバース事業は次の5つです。
- メタバースプラットフォーム:MiraVerse
- ショッピングプラットフォーム:メタパ
- デジタルツイン型サービス:デジタルツイン・ワールドトリップ
- アバター生成システム:メタクローン
- アバター管理プラットフォーム:AVATECT
メタバースプラットフォームの提供だけでなく、メタバース構築、アバター生成・管理、セキュリティ対策まですべてを請け負っています
- メタパの出店費用は?
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メタパの出店費用は、1店舗300万円からです。店舗の内装や商品の3DCG制作によって価格は変動します。
中小企業が出展しやすいよう、テンプレート型簡易店舗も用意されています。ただしくわしい費用は公開されておらず、問い合わせが必要です。
- 凸版印刷のライバル企業は?
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凸版印刷のライバルといえば、大日本印刷です。創業も1876年と凸版印刷よりも老舗です。
紙の印刷部門は凸版印刷のほうが強い一方で、大日本印刷はフィルムやパッケージ印刷に強みがあります。また次のような事業にも強みがあります。
- マイナンバーカードの制作
- クレジットカードセキュリティ
- ディスプレイ光学フィルム
- 飲料部門(コカ・コーラ)
メタバース事業にも進出していて、ブルボンのメタバースを構築したり、cluster内にバーチャル秋葉原をオープンさせたりしています。
ほかにも地域共創型空間『パラレルシティ』では市渋谷区立宮下公園などを開発。
凸版印刷と同様に、メタバースによるデジタルコミュニケーションの分野にも精力的に取り組んでいます。
まとめ
この記事では、凸版印刷のメタバースについて解説しました。
最後に重要なポイントをおさらいしておきましょう。
- 凸版印刷は印刷テクノロジーに特化した世界最大の印刷会社
- 凸版印刷の強みはセキュリティ技術と表現技術
- BtoBtoCのビジネスをメタバースで実現
- 国策的なデジタル化の取り組みを行う
- 凸版印刷が手がけるメタバース事業は5つ
- 印刷事業とメタバース事業は親和性が高い
紙の印刷から始まった凸版印刷は、今や「印刷テクノロジー」をベースに「情報コミュニケーション事業分野」「生活・産業事業分野」および「エレクトロニクス事業分野」の3分野で売上を伸ばしています。
デジタル化の進む凸版印刷が、新時代を見据えて力を入れているのがメタバース事業といえるでしょう。
メタバース構築からセキュリティまですべてを手がける凸版印刷の今後に注目です。