近年、医療現場でAIが果たす役割は、ますます注目されています。
そのため、
- AI医療の具体的な活用事例を知りたい
- AIを導入するメリットやデメリットについて知りたい
- AI医療に将来性はあるのか知りたい
と考えている方は多いでしょう。
そこで本記事では、AI医療の活用事例やメリット、デメリットを詳しく解説します。
私たち患者側に関係する内容でもあるので、ぜひ最後までご覧ください。
AI医療の現状は?3つの活用事例を紹介
近年、医療現場でAIが果たす役割は大きなものとなっています。
具体的には、以下のような場面でAIが活躍しています。
- 画像診断
- 手術補助
- 電子カルテ、オーダリングシステムの導入
これらの事例について、具体的な例を交えてご紹介します。
AIを活用した画像診断
AIを活用した画像診断により、病気の早期発見が実現されています。
島根大学医学部附属病院では、MRI画像データを用いた認知症リスクの検査を行なっています。
2,000例ほどの軽度認知症の方の頭部MRIを、数年にわたり分析。その結果、3年後に認知症になるリスクを、80%の精度で予測することに成功しました。
このような診断の迅速化は、早期治療や病状悪化予防につながると期待されています。
AIロボットによる手術補助
AIロボットの活躍により、手術患者の負担が軽減されています。中でも、手術補助ロボットダヴィンチの手術成功率はなんと99.5%以上。
手術後の出血や痛みが少なく、ほとんど傷も残らないため、早期社会復帰が可能です。
繊細な技術が求められる領域で、さらなる活躍が期待されています。
国産初のロボットが保険適応
高性能かつ、特定の手術に保険適応されているダヴィンチですが、1台の価格が2億5,000万円と高価で維持費も高額なため、普及率が低いことが欠点でした。
そこで、株式会社メディカロイドが国産初の手術支援ロボットhinotori(ヒノトリ)を開発。
hinotoriは2020年に泌尿器科手術、2022年に消化器外科、婦人科で保険適応されました。ダヴィンチよりもコストを60%ほどに抑えられることもあり、普及率の加速が期待されています。
電子カルテ、オーダリングシステムの導入
厚生労働省の調査によると、医療施設の50%以上で電子カルテやオーダリングシステムが導入されているとのことです。
医師が看護師や薬剤師に行う指示内容をコンピューターに入力することで、正確かつ迅速に伝えるシステムのこと。
電子カルテとオーダーリングシステムの導入により、以下のような効果が出ています。
- 情報管理や業務の効率化に成功
- 患者の待ち時間が平均2分に短縮
- 24時間予約や予約変更の対応が可能
これらの効果は医療従事者だけでなく、患者のメリットにもつながっているため、今度ますます導入が増えていくでしょう。
AI問診により診療の質向上
AIを使用した事前問診システム「ユビーAI問診」により、診療の質が向上した事例があります。
ある医院では、カルテ作成に時間がかかり、業務が滞っていました。そこで、ユビーAI問診を導入したところ、以下のような質の向上が実現しました。
AIを活用したカルテは、今後も医療従事者の負担を軽減し、患者の安全性を確保する役割を果たしてくれるでしょう。
医療現場でAIを活用するメリット5つ
医療現場における問題解決の手段として、AIの活用が注目されています。
AIを導入するメリットを5つまとめました。
- 医療データの管理が容易になる
- 医療過誤の防止につながる
- 病気の早期発見ができる
- 医師・看護師の負担軽減になる
- 地域ごとの医療格差を解消できる
ひとつずつ解説していきます。
1.医療データの管理が容易になる
医療データの管理にAIを導入することで、以下のような事務業務の効率化が期待できます。
- 医師や医院間での情報共有が容易化
- 入力ミスの防止
- レセプト(診療報酬明細書)による誤請求の防止
AIが医療記録を自動的にチェックし、入力ミスや誤請求を検出することで、人的ミスの防止につながります。
業務効率が向上し、医療従事者の負担軽減や患者への質の高いサービス提供が可能となるでしょう。
2.医療過誤の防止につながる
優秀な医師でも、病状の見落としや適切な処置を誤ってしまうことがあります。
しかしAIであれば、大量の医療データを迅速かつ精密に分析し、予測することが可能です。
医師とAIの2重のチェックにより、診断ミスの減少が期待されます。
患者の医療データ管理が容易に
AIで患者の医療情報を管理することで、異なる医療機関や部門でも正確なデータにアクセスしやすくなります。
たとえば、救急救命センターを受け持つ日本海総合病院では、専門の診療科以外の患者を診る場面が多く、情報収集に時間がかかることが課題でした。
そこで、ユビーAI問診を導入したところ、紹介状の内容や服用歴を簡単に電子カルテに残せるようになり、次のような成果が得られました。
医師・看護師・クラーク等それぞれの間で同じ情報を共有できるようになっているため、今までは情報量に差があったため無駄なコミュニケーションが発生していましたが、それが削減されたお陰で、認識を揃えて業務が実施できていると思います。
引用元:ユビーAI問診
このようにAIを活用することで、患者の状態をより詳しく把握し、医療従事者の業務をサポートしてくれます。
3.病気の早期発見ができる
AIのデータ解析能力と効率的なパターン認識により、病気の早期発見が可能です。
たとえば、心房細動は早期診断・治療により予防が可能ですが、非専門医では発見が難しいことが課題でした。
しかし、AIの心電図解析ソフトウェアに心電図データをアップロードすれば、24時間分の心電図波形を約5分で自動解析し、心房細動を特定できます。
非専門医でも一目で心房細動がわかるため、多くの医療機関に導入されています。
病気の早期発見は患者の命を守るだけでなく、医療コストの削減にもつながるといえるでしょう。
4.医師・看護師の負担軽減になる
近年、医療現場では人材不足が深刻な課題となっています。
じつは、医師の総数は年間3,000~4,000人ほど増加していますが、以下のような医療需要の増大に追いついていません。
- 高齢化による疾患需要の増加
- 診断書作成の業務量の増加
- 新たな診療領域の出現による医療需要の増加
この問題解決に、AIのデータ処理や症例解析などの能力が役立つと期待されています。
AIにサポートしてもらうことにより、限られた医療スタッフでも効率的に働けるでしょう。
医師の労働環境改善にも
長い間、医療現場の過重労働が改善されていませんでした。
しかし、2024年4月1日から、医療従事者の時間外労働の上限規制が適応開始されます。
この上限規制の導入は、医療従事者の働き方改革を促進するものです。
医療データの処理や解析をAIが担うことで、医療現場の労働環境の改善が期待されています。
5.地域ごとの医療格差を解消できる
地域によって医師の数が異なり、地方では医師不足が深刻化しています。
また、田舎などの医療設備が整っていない場所では、適切な治療が受けられないことが問題に。しかし、AIを活用すれば、自動診断やオンラインでの専門的な診断、治療が可能になります。
少人数の医療チームでも多くの診察・診断が行えるので、医療格差の解消に役立つでしょう。
医療現場でAIを活用するデメリット3つ
AI医療の将来性に期待が高まる一方で、以下のような課題もあります。
- 医師による確認・判断が必要
- 責任の所在が不解明
- 膨大な症例データが必要
これらの課題は、AI医療を安全に活用するために解決しなければならない問題です。
ひとつずつ解説していきます。
医師による確認・判断が必要
AIはデータ解析・処理に優れており、医療現場において大きな支援が期待されています。しかし、同時にAIシステムはまだ発展途上であり、誤った診断をする可能性があります。
とくに医療現場では、人の命や健康に大きな被害を出す危険性も。そのため、現時点でAIはあくまで医師の判断を補完する役割に留まっています。
責任の所在が不解明
AIの診断や治療にミスが発生した際、責任の所在が明確でない場合があります。なぜなら、現時点では法的な基準が確立されていないからです。
医療は人の命がかかった領域であり、誤った判断が深刻な結果を招く可能性があります。AI技術と医療を調和させるためには、責任に関する明確なフレームワークと法的基盤の整備が不可欠です。
膨大な症例データが必要
AIが正確な診断をするためには、膨大な症例データが必要です。医療情報が少ない病気の場合、データが足りず誤診の可能性も。
また、機械の目には見えない微細なパターンや、まれな症例が誤りの原因となることがあります。正確な診断を行うには、情報のアップロードが絶えず必要です。
AI医療の今後は?将来性に期待大な理由3つ
医療の未来を切りひらくAI技術は、今後より欠かせない存在となるでしょう。
その理由は以下の4つです。
- ゲノム(遺伝子)医療の発展
- 医薬品の開発コスト軽減
- 大手企業がAI医療機器開発に積極的
これらはすべて、未来の医療を支える重要な要素なので、一緒に詳しく見ていきましょう。
1.ゲノム(遺伝子)医療の発展
ゲノム医療とは、ヒトの遺伝子情報をもとに予防や診断、治療を行うオーダーメイド医療のこと。腫瘍組織から遺伝子変異の解析ができるため、がん治療の進歩に期待が寄せられています。
画期的な医療ですが、専門医の不足や解析にかかる時間など、多くの手間が問題視されてきました。しかし、AIを活用すれば情報処理の時間が短縮され、治療の効率化が期待されます。
今後のゲノム医療の発展に、AIの活躍は不可欠といえるでしょう。
早期胃がんを診断するAIを構築
理化学研究所は2023年6月6日、1画素単位の画像解析により早期胃がんの存在確率を予測できるAIを開発したと発表しました。
このAIは、専門医6人との比較で、病変の範囲をほぼ同等の精度で診断するという結果が得られています。
さらに、学習用データの収集が困難な希少がんなどにも適用できる可能性があるとして、今後の活躍に期待が寄せられています。
2.医薬品の開発コスト軽減
日本ではひとつの薬が市販されるまでに数十年もの時間と、約500億円の開発コストが必要とされています。しかし、AIを用いれば医薬品開発の効率化が進み、コスト削減が実現できる可能性があります。
また、人では発見が難しい原材料の組み合わせをAIが見つけることも。
これにより、新たな医薬品の開発や革新的な治療法の発見が促進され、医療の進歩につながるでしょう。
3.大手企業がAI医療機器開発に積極的
以下のような大手企業が、AI医療機器の開発に積極的に取り組んでいます。
- 富士フイルム:画像診断支援機能の開発
- オリンパス:内視鏡AIのプラットフォームを構築
- 日立製作所:肺がんなどの診断システムを開発中
- コニカミノルタ:X線診断装置関連のAIプログラムを開発中
- NEC:胃がんなどの内視鏡観察部位診断システムを開発
これらの企業は、AI技術を活用することで、医療分野に革新をもたらすことを目指しています。
今後、AIの精度が上がれば、新たな企業も参入する可能性が高まるでしょう。
ベンチャー企業も活躍
2022年12月、日本で初めてAI医療機器を使用した診断が保険適用になりました。この機器を開発したのは、2017年に設立されたベンチャー企業であるAillis(アイリス)です。
その製品であるnodoca(ノドカ)は、咽頭(のど)の画像と問診情報をAIが解析し、インフルエンザの診断を補助します。痛みが少なく、数秒から数十秒で判定結果を得られるため、スムーズな診察が可能です。
ベンチャー企業のスピードと柔軟性は、今後も医療分野に新たな可能性を切りひらいてくれるでしょう。
AI医療に関するQ&A
AI医療に関するよくある質問と回答を紹介します。
- AI医療の事故事例はありますか?
- 看護師の仕事はAIに奪われますか?
- AI医療関連の銘柄はありますか?
気になる項目をチェックしてみてください。
- AI医療の事故事例はありますか?
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残念ながら、支援ロボットを使用した手術で、死亡事故が起きた事例があります。
2020年10月27日、男性の肺の一部を切除する内視鏡手術の際、外科医がロボットの遠隔操作を誤って医療器具で大動脈を損傷。
大量出血し、男性は17日後に低酸素脳症で死亡したという。
引用元:読売新聞ロボット手術に不安を感じるかもしれませんが、事故の原因は人的ミスであり、AIの不具合ではありません。
また、ロボット手術は傷口が小さく、回復が早いという利点があります。
今後、AIの精度が向上すれば、人的ミスの確率は低減されるでしょう。
- 看護師の仕事はAIに奪われますか?
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A.結論からいうと、AIが看護師の仕事を奪う可能性は低いと言えるでしょう。
看護師の仕事は、患者に合わせたメンタルケアを求められる場面が多く、この点はAIが十分にカバーできないためです。
むしろ、AIは以下のような看護師の業務をサポートし、相補的な関係を築くことが期待されています。
- 患者の健康データの分析や記録
- 薬剤管理
- モニタリング
AIと看護師が相互補完的な関係を築くことで、より良い医療サービスの提供につながるでしょう。
- AI医療関連の株式銘柄はありますか?
-
AI医療関連の株式銘柄として、以下の企業が挙げられます。
- FRONTEO:AIを活用した創薬支援サービスを提供
- トプコン:アメリカのAI自動診断システム会社と独占契約
- 富士フイルムホールディングス:内視鏡AI診断支援技術を開発
- カシオ計算機:独自の画像処理技術を医療分野に応用
- クレスコ:歯科診療所向けAI型電子カルテシステムの開発
詳しい値動きは以下のサイトで確認できるので、参考にしてみてください。
まとめ
本記事では、AI医療の活用事例やメリット、デメリットについて解説しました。最後に重要なポイントをおさらいしておきましょう。
- AIは画像診断や手術補助など、医療現場で広く活用されている
- AIを導入することで、医療従事者の負担が軽減できる
- AIの精度は発展途上なため、医師による確認が必要不可欠
- AIの処理能力が新薬開発の効率化につながる
- 多くの大小企業が、AI医療機器開発に取り組んでいる
AIの精度は未熟な部分もありますが、医療現場に大きな革新をもたらす可能性を秘めています。
医療現場の問題解決や、より良い医療サービスの実現に向けて不可欠であり、今後も目が離せません。