2025年は給与計算におけるAI活用が動き出しており、年末調整や問い合わせ対応などの領域にも広がりつつあります。
しかし、給与計算のAI活用に対して以下のように考えている人は多いでしょう。
- AIでどこまで自動化できるのか?
- RPAとの違いは何なのか?
- 具体的にどのようなサービスを利用すればいいのか?
結論から言うと、RPAが対応しきれない乖離検知や質問対応でAIを活用することで、給与計算の効率を向上させられます。
本記事では、給与計算でAIを活用するメリットや役割、導入するまでのステップなどを解説します。
主なツールや注意点にも触れているので、AI導入を検討している担当者の方はぜひ最後までご覧ください。

給与計算AIのメリット・役割

ここでは、AIが給与計算で対応できる役割およびメリットについて、以下4点を解説します。
- 手入力を自動化して計算時間を短縮
- 乖離や不整合を自動検知する
- 問い合わせ応答を自己解決化する
- 年末調整をスムーズにする
1.手入力を自動化して計算時間を短縮する
勤怠データや支給項目などを入力する作業は、AIを活用して自動化できます。
あらかじめAIにフォーマットや書式を伝えておくことで、必要書類を読み取らせて自動入力させる運用が可能です。
担当者は入力内容の確認に集中できるため、業務全体の作業時間短縮が期待できるでしょう。
RPAとの役割分担で効率向上
自動入力においては、RPAと併用する使い方がおすすめです。
RPAは定型業務を自動化する技術で、AIよりも高速で自動入力を処理できます。
一方AIは、入力の文脈や意味を理解できるため、フォーマットに則っていない記述を自動修正することが可能です。
たとえば、勤怠表に「欠勤」「欠席」「無出勤」のような表記ゆれがあっても、AIであれば一つの表記に統一して処理できます。
定型処理をRPAに、例外や判断を伴う入力補完をAIに任せることで、安定した精度とスピードを両立できるでしょう。
2.乖離や不整合を自動検知する
AIを導入すれば、入力された内容に異常があった際に自動検出できます。
過去の支給履歴をもとに各従業員の傾向をAIは学習しており、前月や前年のデータと比較してリアルタイムで判断します。
たとえば、残業時間が不自然に減少したり、控除額が急増したりした場合に、AIが担当者に確認すべき箇所を通知する仕組み作りが可能です。
こうしたAIによるチェックで、人の目で確認する範囲が大幅に絞れます。
3.問い合わせ応答を自己解決化する
給与計算に関する従業員からの問い合わせを、AIで自動対応させることも可能です。
ナレッジベースを作成し、AIに学習させることで、ほとんどの質問をAI回答で解決させられるようになります。
たとえば、以下のような問い合わせが考えられるので、回答をあらかじめ登録しておくとよいでしょう。
- 控除額の内訳は?
- 住民税の反映はいつ?
- 年末調整書類の提出先はどこ?
- 残業代の計算方法は?
問い合わせ窓口の往復が減ることで、従業員は解決までの待ち時間を短縮できます。
4.年末調整をスムーズにする
手戻りが多い年末調整も、AIによるアシストでスムーズにできます。
人の手で処理しようとすると、記載不備の差し戻しや控除確認などで多くの時間をとられる確率が高いです。
しかしAIによる年末調整アシストを活用できれば、例外の判断や最終承認のみに作業を減らすことも可能です。
導線を整理できれば、書類回収から電子申告書の作成まで一気通貫で処理させる運用も実現できるでしょう。
給与計算AIの導入ステップ

ここでは、導入前の棚卸しから運用の定着まで、つまずきやすい順番で押さえます。
- AI機能の目的を明確にする
- 自社の現状を可視化する
- 連携できるシステムを整理する
- 導入テストと人による検証を実施する
- 運用ルールや体制を整備する
AI機能の目的を明確にする
AIを導入する際、目的を明確にすることが重要です。
目的が決まらなければ方向性も定まらず、導入を検討しているうちに何をすべきかわからなくなるでしょう。
AI導入によって解決したい問題を明らかにし、具体的な目標を以下のように決めてください。
- 書類の書き間違いが多いため異常検知にAIを使いたい
- 質問への回答をAIに任せて窓口を減らしたい
- RPAと併用して自動計算の精度を上げたい
- 一貫してAIが処理する仕組みを構築したい
ここで決めた目的が、今後の決定事項の指針となります。
自社の現状を可視化する
AIを効果的に活用するために、自社の給与計算フローを明確にする必要があります。
現状の勤怠収集から支給・控除・承認・明細配布までの流れを図式化し、手作業が多い部分を洗い出してください。
作業ごとにかかる時間なども可視化すると、AIやRPAの導入を優先すべき箇所が判断しやすくなります。
同時に、法改正や社内ルール変更の影響が出やすい箇所も特定しておき、将来的な更新計画にも備えましょう。
連携できるシステムを整理する
自社で利用している勤怠管理・会計・人事労務システムを一覧化し、AIと連携する方法を整理します。
仮にAIを導入できたとしても、データが分断されていればスムーズに自動化できません。
データを連携できるシステムを組み合わせ、人による操作をなるべく減らすよう検討してみてください。
たとえば、Airシフトにはfreee人事労務との連携機能があり、Airシフトの勤怠データをもとにした給与計算が可能です。
導入テストと人による検証を実施する
導入するAIシステムを決めたら、本番前にテストおよび検証を実施しましょう。
数か月分の実データを用意し、AIが正しく動作するかテストします。
テストした結果は担当者の目で検証し、人による判断との違いを洗い出してください。
意図したとおりにAIが動かない場合は、別のAIサービス・ツールの利用も検討し直すべきかもしれません。
運用ルールや体制を整備する
AIを組み込んだ給与計算を安定して運用するために、ルールや体制を整備します。
具体的には、以下のようなルール・体制を決める必要があります。
- AIの出力を誰が確認して承認するか
- 誤検知率などをどのように確認してレビューするか
- データやアクセス権限を管理する責任者は誰なのか
テスト結果や就業規則などをもとに、セキュリティ性を考慮した運用方法を作りましょう。
AIで給与計算できるサービス・ツール4選

給与計算に利用できるAI関連サービス・ツールとして、以下の4つを紹介します。
- freee人事労務|AI年末調整アシストの提供開始
- マネーフォワード クラウド給与|AI提案機能を搭載
- SmartHR|AIアシスタントで質問対応
- ジョブカン|複数サービスの連携でAI活用
1.freee人事労務|AI年末調整アシストの提供開始

freee人事労務はシェアNo.1の労務管理システムです。
2025年分からはAI年末調整アシストの提供を開始し、税制改正による様式変更にも対応しました。
Airシフトと公式に連携しており、勤怠から給与まで一気通貫で処理できる点も特徴です。
多拠点でも柔軟に管理できるため、多くの中小企業で活用できるでしょう。
Airシフト連携の前提条件
Airシフトと連携する際は、事前に勤務・賃金設定を正しく追加しなければなりません。
勤務・賃金設定では、以下のような項目の入力が必要です。
- 労働時間、労働形態
- 打刻方法
- 休日
- 有給の集計方法
- 割増賃金
- 時刻の丸め方
これらを正しく設定できていなければAIによる計算結果が変わってしまうため、注意してください。
2.マネーフォワード クラウド給与|AI提案機能を搭載

マネーフォワード クラウド給与は、カスタム計算式を自動生成するAI提案機能を搭載した給与計算システムです。
給与計算の方法を自然言語で説明することで、独自の計算式を自動的に作れます。
たとえば「割高基礎を所定時間(月平均)で割り、その結果に1.25をかけて、小数点以下1桁で切り上げた値を法定外時間(平日)にかけたい」のように入力できます。
計算方法を決める初期設定時に役立つでしょう。
3.SmartHR|AIアシスタントで質問対応

労務管理などに利用できるSmartHRには、従業員向けのAIアシスタントを掲載する機能が備わっています。
質問や回答を手入力する必要がなく、参考となる資料やデータをアップロードするだけで運用を開始できます。
実際の問い合わせ内容からさらに学習するため、利用するほど回答精度が上がるのも嬉しいポイントです。
従業員からの質問が多く回答に時間をかけている企業に向いているでしょう。
4.ジョブカン|複数サービスの連携でAI活用

企業のバックオフィス業務を効率化するためのクラウドサービス群であるジョブカンでは、複数のサービスを連携してAIを活用できます。
具体的な例として、ジョブカン勤怠管理のAI-OCRや顔認証があります。
AI-OCRは、請求書や領収書などの画像データから項目を読み取って登録する機能です。
顔認証は打刻と連動しており、マスクをした状態でもAIで識別して出退勤時間を記録します。
これらのデータをジョブカン給与計算と連携することで、作業時間を大幅に減らせるでしょう。
給与計算AIを導入するときに注意すべきこと

給与計算にAIを導入する際は、以下の点に注意してください。
- 定期的なルール更新を続ける
- マイナンバーなど個人情報を安全に管理する
- 他のサービスに乗り換えやすい仕組みにしておく
- 最終的に必ず人が確認する運用設計する
1.定期的なルール更新を続ける
AI導入時に決めたルールは、定期的に更新していく必要があります。
ルールを更新しないまま使い続けていると、改正されたルールや法律に対応できません。
以下のようなタイミングで、AIのプロンプトやテンプレートなどを見直してみましょう。
- 税法が改正されたとき
- 社内ルールや給与体系が変更されたとき
- 職種や手当が増減したとき
- 誤検知が多くなったとき
ルールを変更する際はテストも忘れずに。
2.マイナンバーなど個人情報を安全に管理する
AIを使った給与計算では、従業員の名前や住所、マイナンバーなど個人情報の扱いに注意が必要です。
個人情報は一度漏れると取り返しがつきません。
実際にAI利用を始める前に、個人情報の扱い方に問題がないか再度チェックするようにしましょう。
社外だけでなく、社内で流出するリスクにも気を付けてください。
3.他のサービスに乗り換えやすい仕組みにしておく
給与計算AIを導入するときは、別のサービスに切り替えたくなった場合に備えましょう。
使い始めたシステムにすべてのデータを預けきってしまうと、別のサービスに移すのが難しくなることがあります。
特定のサービスに依存しすぎないよう、給与データを外部に出力できる仕組みがあるかを確認してください。
データ移行の費用やサポート体制も事前に比較しておくと安心です。
4.最終的に必ず人が確認する運用設計する
AIが自動的に処理した内容は、必ず人間の手で確認・承認するようにしてください。
過去のデータをもとに判断しているAIは、突発的または特別な入力内容に対応しきれない可能性があります。
万が一ミスが発覚すれば信用問題にまで発展する可能性も。
あくまでAIは給与計算をサポートするために活用し、人による判断を省略しないことが重要です。
給与計算AIに関するQ&A

給与計算AIに関する、よくある質問と回答を紹介します。
- AIとRPAはどちらを先に導入すべき?
- AIの導入でどれくらい工数が減る?
- 給与計算AIのセキュリティは安全?
- 給与計算AIの導入費用はどれくらい?
- Airシフトだけで給与明細は作れる?
AIとRPAはどちらを先に導入すべき?
定型的な作業を減らしたい場合は、まずRPAから導入するのがおすすめです。
一方で、過去データからミスや例外を見つけたいときはAIが有用です。
RPAで入力の自動化を進めたうえで、AIによる判断や検知を導入することで、より安定した自動化が可能になります。
最終的には、RPAとAIを組み合わせて使うのが理想的です。
AIの導入でどれくらい工数が減る?
自動化のルール作りを徹底すれば、工数を半分以下にすることが可能です。
勤怠データの転記や控除額の確認など、ミスが起きやすい部分で特に大きな効果が期待できます。
勤怠システムとの連携や自動計算を組み合わせ、作業時間を8割以上削減できたという事例も。

ただし、最終的な確認や承認は人が行うことを忘れないようにしましょう。
給与計算AIのセキュリティは安全?
多くのクラウド給与サービスでは、情報が外部に漏れないよう複数の安全対策が取られています。
ログインには本人確認が必要で、データは暗号化された状態で保存されます。
また、ISMS認証という情報管理の国際基準を満たしているサービスは安全性が高いです。
AIを導入する際は、セキュリティ対策が明記されているサービスを選びましょう。
給与計算AIの導入費用はどれくらい?
クラウド給与サービスの多くは、従業員数に応じた従量課金で利用できます。
AI機能が標準で含まれているものもあれば、有料オプションとして提供される場合も。
初期設定やデータ移行を外部に依頼する場合は、別途初期費用がかかることもあります。
料金だけで判断せず、サポートや更新頻度もあわせて比較するのがポイントです。
Airシフトだけで給与明細は作れる?
Airシフトは勤怠管理の機能に特化したツールなので、単体では給与の計算や明細の発行には対応していません。
給与明細を作成したい場合は、freee人事労務などの給与ソフトと連携して使う必要があります。
連携設定を行うことで、勤怠データをもとに給与を自動計算できるようになります。
まとめ
本記事では、給与計算のAI活用について解説しました。
最後に、記事の内容をおさらいしておきましょう。
- 給与計算AIを導入すると、入力や確認の手作業を大幅に減らせる
- AIは異常検知や問い合わせ対応など、人が判断に迷う部分の補助に向いている
- 導入前には目的と運用体制を明確にし、人による最終確認を残すことが重要
- 個人情報の安全管理やデータ移行の仕組みも、導入時に必ず確認する
給与計算AIは、ただの効率化ツールではなく、業務の正確さと働く人の負担を減らす仕組みです。
まずは自社の給与計算フローを整理し、どの部分にAIを取り入れられるか検討してみてください。






